理化学研究所脳科学総合研究センター(理研BSI)Brain Science Institute



アジアでのゴードンリサーチカンファレンス
〜女性の視点から〜

ニューロン機能研究グループ
細胞内情報研究チーム
研究員 
尾崎美和子 



 去る9月6日から9月11日まで、中国、北京にて“Molecular Cellular Neurobiology ”のゴードンリサーチカンファレンスが開催された。世界のトップサイエンティストたちが、まだパブリッシュされていない最先端の結果を持って集まった。質の高いディスカッションがフォーマルな会議中は言うまでもなく開催期間中至る所で繰り広げられ、非常に密度の濃いものであった。

 アジアとアメリカ間のサイエンスの交流促進を図るため、開催地をアジアとアメリカで交互にして行こうといった提案により、次期アジアでの開催地は香港に決まった。議長は Nancy Ip 教授である。彼女は香港科学技術大学の教授であり、また、生物工学研究所の所長でもある。
現在、私はシナプス形成に重要と考えられる分化増殖多機能遺伝子ニューレグリンの研究を行っているが、研究テーマが近いこともあり彼女と色々な話をすることができた。
特に記述したい点は、彼女が研究において常に世界の第一線を維持してきた優秀な研究者であると同時に、家庭に帰れば主婦業(御主人は研究者ではない)とママさん稼業を同時にこなし、すべてが上手くいっている稀有な存在であるということである。

Nancyとゴードンカンファレンスの会場で
今回のカンファレンスでもボスとして独立しているアメリカ在住の女性研究者は何人か見受けられたが、アジアで独立でき、かつ世界をまとめる立場を獲得できた彼女の存在は私には非常に嬉しいものであった。

 第一線を行く女性研究者に共通して言えるのは、女性としての柔らかさと、仕事の上ではきっちり結果を出していかなければならないことを十分に理解している厳しさを持ち合わせているということだ。私は0才児の子供を連れ渡米し、NIH(National Institutes of Health: 米国立保健研究所)でポスドクとして働きアメリカでの子育ても経験したが、基本的には家庭を維持しながら仕事を続けることは、国、国籍を問わず大変なものである。仕事の大切さと子供に対する思いはなかなか比較できるものではないが、それでもその時々で今は何が最優先かを秤にかけながら過ごさなければならない。そんな道のりをくぐり抜けてこられた先輩方に頭が下がる思いがする。


NIH(USA)近くの公園で
 今回、各セッションでオーガナイザーとしてディスカッションリーダーとして頑張っていらした女性研究者の方々及び仕事にフィロソフィーを感じられるような研究者の方々とまさに今行っている研究の話だけでなく、もっと広い意味でのサイエンスのありかた、方向性といった色々な話をすることができたことは私にとってとても良かったと思う。
女性研究者の日本の現状を考えると暗い気分になるものの、良い仕事ができるよう頑張って行きたいと前向きにもなれた。

 更に前述のカンファレンスで強く感じたことは、中国の勢いである。合理的な考え方をどんどん取り入れ変わって行こうとする姿勢と、変化を受け入れられるだけの柔軟性が中国のサイエンスのレベルを加速度的に上げて行き、近い将来トップの座を占めるのではないかと感じた。一方、日本では脳科学総合研究センター(BSI)がこれまでの日本にない幾つかのユニークな制度を取り入れ歩み出した。伊藤正男所長をはじめとする運営会議の皆様のおかげで非常に研究し易い環境がセットされてきている。

 ゴードンリサーチカンファレンスではどれも超一流の仕事が報告されたが、その中でも多くの参加者がこれは突出して良い仕事だと感じた研究は日本人から出され、日本もかなり良い線まで行けるぞ(勿論道のりは険しいが)と感じた。そして国籍、人種、言葉の壁を超えて良いものは良いと久しぶりに感動する経験を得ることができた。


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