理化学研究所脳科学総合研究センター(理研BSI)Brain Science Institute



研究所運営のあり方を模索して

脳科学研究推進部長 三木義郎 


 1997年10月に理研BSIが発足してから1年半が経過しました。スタート時に100名弱だったBSIメンバーも今やフェローを入れると300名に迫ろうとしています。4月には中央研究棟第 I 期も完成し、内部の体制作りが進む一方、大学、研究機関、企業との連携研究も既に20件に上っています。こうした研究所の順調な発展は、国からの力強い支援と学界など各方面の御協力の賜物と、心より感謝申し上げます。また、極めて短期間に脳科学という総合科学に機動的に対処できましたのは、科学技術全般をカバーする我が国唯一の特殊法人研究機関である理化学研究所の組織力と歴史的に培われた自在性によるものと言えましょう。

 BSIの計画が打ち出されたのは、ちょうど3年前でした。我が国の脳科学の健全な促進を目的とした“脳の世紀”の熱心な活動などを背景として、国が積極的にその抜本的な推進策を講ずるようになりました。そこには、全体的にみて政策面でも実施面でも米欧と比較して立ち後れた我が国のバイオメディカルサイエンスを本格的にテコ入れする契機にするとの考えが強くあったと思われます。残念ながら、我が国のバイオメディカル研究は、国際的に評価の高い科学者は相当おられるものの、多くの場合、個々の存在に止まり、組織的に大きな力となって世界の科学の進歩に貢献したり、若い優れた研究者を輩出するという体制がないとの認識が一般的でありました。このため、BSIは当初から本格的な国際COEを目指して、意欲的なチャレンジを行っています。具体的内容は省きますが、一言でいうと、前例にとらわれず、横並び主義を排し、高度な研究を遂行するために必要なことならそれが妥当である限り、何でも積極的に取り組む、そして、我が国もバイオメディカルサイエンス分野で、研究本位のサイエンスを本格的にやれる大型の研究所らしい研究所を作るということです。しかも、社会的に存在感のあるものとして。

 BSI構想が考えられた当初、我が国にはない全く新しい発想の研究所にするものとし、その経営手法、組織作り、望ましい研究環境をどのようなものにするか、世界の様々な機関から学ぶべく海外調査を実施しました。第1回は1996年4〜5月のゴールデンウィークに行い、調査はその後も続いています。移動日なし、1日2〜3箇所の訪問は当たり前という強行軍でNIHの各部門、MRC研(英)、マックスプランク研、UCSF、ソーク研、ロックフェラー大学などの脳科学に関連した機関はもちろんのこと、EMBL(欧州分子生物学研)、CALTECH、NASAジェット推進研、HHMI及びWellcome Trustの本部など、訪問した先はこれまでに50機関に上ります。どこへ伺ってもトップレベルの方々が丁寧に対応して下さり、又、多様な現場を快くお見せいただき、そこでの研究の素晴らしさと国境を意識させないサイエンスの世界に毎度感動すら覚えました。

 この3〜4年のうちにBSIは研究者、技術者が総勢500名となります。チームリーダー(平均的には若手教授クラス)は、60名近くにまで拡大します。一方、組織が大きくなると、平等性の尊重や情報の共有、コンセンサス形成といったことのために、不必要と思えるほどまで規則や会合が多くなりがちです。自由度、弾力性のあるBSIは可能な限り、意志疎通が簡素で、むしろ実際の研究上の所内外とのインタラクションが最大限に図れるように、基本ルールだけを作ります。あとは、それぞれの責任者やケースに応じて幅のある運用をできるようにし、研究者には常に国際サイエンスコミュニティと向きあっていただきたいものです。また、我が国の研究システムは新しい科学にダイナミックに対応するのに遅れがちです。これは、若手研究者の自在な活躍や新しい分野への新規参入を阻害する壁があることに一因があります。BSIでは、真にサイエンティストが独立して研究を行えるポジションである上級研究員を設けるなど、こうした課題にも、脳科学という限られた領域ではありますが、積極的に対処していく考えです。

 先のゴールデンウィークの間にも欧米を訪問する機会がありました。その際、改めて多くの方々から我が国とBSIに対して大きな期待の表明と激励をいただきました。私どもも、ある世界を代表する科学者が述べたように、BSIが新しい脳科学の歴史を拓く事業に、10年先、20年先をしっかり見据えて、志高く参加していけるようにしていきたいものです。


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