理化学研究所脳科学総合研究センター(理研BSI)Brain Science Institute



BSIという夢
─ミレニアムに相応しい始まり

認知脳科学研究グループ
脳機能ダイナミクス研究チーム
チームリーダー
Andreas A. Ioannides


 少数精鋭の集団である BSI の20年間の使命、すなわち脳を知る、脳を守る、脳を創るという領域に集約される使命は、千年の時間間隔で捉え得るほど普遍的な意味を持ちます。歴史上、これほど短いタイムスケールでこれほど遠大な計画が推し進められたケースはないでしょう。私たちはこれを実現できると信じています。少なくともこの3領域の目標をかなり深くまで推し進められると信じているからこそ、現在 BSI がここにあるわけです。

 私たちは、自分の頭の中にある現実と夢を研究します。論証し、実証するという任務を負った夢追い人、それが私たちの姿です。私の研究チームでは脳磁図という手法を用います。これは脳機能を理解する上で非常に重要な役割を担います。脳磁図によって、活動中の脳をより重要な尺度で把握できるのです。

 空間的に見れば、コンマ数センチしか離れていない領域や反対側にある領域の脳活動を識別する情報が脳磁図に含まれています。特定の刺激を専門に処理する領域、生命体にとっての価値を評価する領域、運動計画を制御する領域、情動を認識・誘発する領域、さらに無意識の処理と意図的な決断との橋渡しをする領域など、大脳皮質に存在するほぼすべての領域を脳磁図で識別することができます。

 時間的な観点では、サンプリングが可能なだけでなく、ある分離領域から別の分離領域まで磁気が存在する場合は、わずか数ミリセカンドの時間差の変化も検出できます。しかも完全に無侵襲でこれを実現できるので、主観的な感覚、感情、気分に対する人間の反応、描写が影響を受けることはありません。さらに、そのデータから情報を抽出し、解剖学的見地から分析するための手法を継続的に改善する必要があり、この手法が脳の謎を解き明かす手掛かりになると信じています。

 私たちチームメンバーは互いの心の中にある宇宙を垣間見ます。BSI はまさにドリームマシンです。未知のテーマのセミナーに参加してみれば、そのテーマが一般的な意味で重要なだけでなく、小さな問題を理解する上でも極めて重要だということが分かるはずです。 リトリート(研修会)では、ポスターを見て討論したり、コーヒーを飲んだり、ボーリングを楽しんだりしながら、初めて出会う人たち、ごく近くにいながら互いの研究について知る機会のなかった人たちと打ち解けた議論がなされます。

 アイデアと夢だけではこの新しい知識のポテンシャルを十分に活用することはできません。リソース──特に自分の時間並びにチームの時間という有限であるがゆえに貴重なリソースを投資しなければなりません。心おきなく議論することによってアイデアが生まれることもありますが、一度も交流を図ったことのない2つのチーム間で研究を行ってこそ、そのアイデアはツールとなります。最終的には選択の問題です。つまり何に投資するのか、そしてどのアイデアを捨てるのかという、さらにいっそう難しい選択を迫られるのです。なぜなら、多くを追うものは何も得ることができないからです。

 したがって、私たちのツールから得られる領域の外へ出ようとするときは、スタイルを持ち、聡明なやり方で無駄を省いている他のチームの研究成果と自分たちの成果とを結合させなければなりません。私たちのチームが行っている研究はモザイクの一部にすぎないので、細かいスケールでのシングルユニット記録や総時間平均の血行動態学的測定とともに脳磁図を見る必要があります。一見縁遠いと思われる分子及び遺伝子レベルの基礎が極めて重要なパラメータであることが多く、また私たちが遭遇する大部分の変異性の源である場合もあります。

 たとえ夢の中であっても、山の頂きは遠くで人の心を誘うようにそびえ立っているものです。そこに登りつめると眼下に平原が見え、地平線上にはもっと高い山々が臨めます。「目標の山頂に到達できた。しかも単なる登山の楽しみ以上のことを得ることができた。地平線のかなたに山々の頂きがそびえ立っている。さあ、次は君たちの番だ」私たちは次世代のドリーマー達にそう伝えたい。

 40年程前、地球の反対側の砂埃舞う田舎町に、ある少年がいました。その少年は BSI と同じく大きな夢を抱いていました。10〜20年後、少年は前より裕福になり、こぎれいになった自分の家が取り壊されるのを目の当たりにしました。そして、子供時代の夢が永遠に掻き消えたような気がして悲しみました。しかし、その10年程後、彼は今も BSI の中で夢が生き続けていることに感謝しています。


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