脳科学の人 研究者インタビュー
Name | 木下 暢暁(きのした ながとき) |
Position | 研究員 |
Education | 京都大学理学部 |
BSI Lab | 視床発生研究チーム |
現在の研究テーマ神経細胞のつながり方を可視化する
私が今取り組んでいることは、これまで「脳科学の人」で紹介された方々とは少し毛色が違っていて、脳や生物の仕組みの解明そのものではなく、それに役立つ技術の開発です。具体的には、細胞同士の接触を蛍光で検出できる人工蛋白質を作っています。
2008年のノーベル化学賞でも有名な緑色蛍光蛋白質(Green Fluorescent Protein: GFP)は、二分割されると光ることができなくなりますが、部分断片同士が接触すると結合してほぼ完全なGFP分子になり、出来上がった分子も緑色に光ることが知られています(図1A)。そこで、このGFP部分断片が細胞の外側に出るような人工蛋白質を設計しました。この人工蛋白質が導入された細胞では、部分断片が細胞膜の上に出ています(図1B)。各GFP断片を提示している細胞が接触すると、その接触面でGFP分子が形成されるので、緑色の蛍光で細胞がくっついたことが判定できるわけです。
更にその分子構造を少し変えて細胞膜からのはずれやすさを調節し、部分断片の片方だけをはずれやすくしたり、両方とも同じくらいにはずれやすくしたりすることで、出来上がったGFPがどちらの細胞に乗り移るのかコントロールすることもできます(図2A)。またGFPは多くの人工的な色調変異体が報告されていて、例えば前半部分に特定の変異を導入することによって青色(Blue Fluorescent Protein: BFP)にしたり、後半部分に特定の変異を導入することによって黄色(Yellow Fluorescent Protein: YFP)にしたりできるのでそれを応用すると、いろいろな組み合わせの細胞間接着を色別し、判定することができます(図2B)。
現在はそのようにして開発している手法を用いて脳神経細胞のつながり方を明らかにしようとしています。脳神経細胞は生体組織の中で最も複雑な細胞同士のくっつき方をしています。例えば人の脳には一千億以上の神経細胞があり、更にその個々の神経細胞には他の神経細胞との接続点であるシナプスが何万もあります。また、神経接続は細長い線同士が点で接続しているだけですから、見た目だけからどの細胞とどの細胞が接続しているのか判断することはとても困難なのです。ですがそこに上で紹介した手法を用いることで接続部位(シナプス)や接続した神経細胞を蛍光により検出できるようになるわけです(図3A)。また分布パターンや色を組み合わせて用いることによって、より複雑な接続様式についても容易に解析できるようになると考えられます(図3B)。
行動や感情といったものを科学的に理解するには、それに関わる神経回路を見つけ出し、更にその中の一つ一つの神経細胞の機能とその繋がり方の意味を調べる必要があります。複雑な神経の繋がり方を簡単に検出できる技術を開発することで、脳科学の進歩に貢献できたらと思います。