運動系神経変性研究チームと神経構築技術開発チームは、パーキンソン病の原因となる異常タンパク質を分解するメカニズムを解明しました。若くして発病する遺伝性のパーキンソン病は、「パーキン」と呼ばれるタンパク質分解に関わる酵素が機能しないため、ゴミとなった特定のタンパク質がドーパミン神経に蓄積することによって起こります。本研究では、パーキンに結合しパーキンの働きを助けるタンパク質「Hsp70」と「CHIP」を同定しました。さらにHsp70とCHIPが、パーキンによる“不要になったタンパク質の分解”を助けることを発見しました。
背 景
パーキンソン病は中脳の黒質と呼ばれる部位のドーパミン神経が選択的に変性脱落してゆき、その結果、運動機能に障害が生じる神経変性疾患です。しかし、ドーパミン神経が変性する原因に関しては、ほとんど解明されていないのが現状です。高齢者に多い病気であるため、これからの高齢化社会において、この難病の発病機構の解明および治療法の開発が強く要請されています。
多くのパーキンソン病は孤発性ですが、一部には遺伝性のものがあり、「パーキン」は常染色体劣性遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子です。これまでに パーキンがタンパク分解に関わる「ユビキチンリガーゼ」という酵素の活性を持ち、パーキンの変異が原因のパーキンソン病患者(家族性)ではこの活性がないことが判っています。さらに、運動系神経変性チームと順天堂大学の共同研究グループによって、パーキンで分解されるはずの膜タンパク質が同定されました。これは正常な形に作られることが非常に難しい「パエル受容体」とよばれるタンパク質で、適切に合成されなかったものはパーキンで分解されます。さらに、失敗作のパエル受容体が神経細胞に蓄積すると神経細胞が細胞死を起こすこと、及びパエル受容体がパーキンソン病脳組織で蓄積していることも明らかになりました。
研究成果
今回、研究グループでは、パーキンと協調してその酵素活性を強める分子の存在を想定し、パーキンに結合するタンパク質を神経系培養細胞から生化学的に同定し、そのタンパク質がパーキンのユビキチンリガーゼ活性におよぼす影響を調べました。また、パエル受容体蓄積による神経細胞死に対する影響も調べました。その結果、以下のような研究成果が得られました。
1)パーキンに結合するタンパク質「Hsp70」と「CHIP」を同定しました。
2)CHIPは、パーキンの酵素活性を増強し、パーキンの基質である“適切に合成されなかったパエル受容体”の分解を促進することを見つけました。
3)Hsp70は、試験管内でパエル受容体を分 解する働きはありませんが、正常な形に作られなかったパエル受容体が細胞内で不溶化し分解酵素で分解されなくなることを防ぐ役割をしていることを明らかとしました。
4)CHIPとHsp70が同時に存在すると、パーキンのパエル受 容体分解活性がもっとも増強されることが明らかとなりました。
5)CHIPとHsp70が同時に存在すると、“適切に合成されなかったパエル受容体”による細胞死を効果的に抑制することが明らかとなりました(図)。
今後への期待
パーキンソン病に加え、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、ポリグルタミン病、プリオン病などの神経変性疾患においても異常タンパク質の蓄積が共通の原因として疑われています。本研究でタンパク質の不溶化を防ぐHsp70と異常なタンパク質の分解を助けるCHIPの働きが解明されたことから、異常なタンパク質の蓄積による疾患の普遍的な治療法が開発されることが期待されます。
Imai, Y., Soda, M., Hatakeyama, S., Akagi, T., Hashikawa, T., Nakayama, K-i., Takahashi, R.: CHIP is associated with Parkin, a gene responsible for familial Parkinson's disease, and enhances its ubiquitin ligase activity. Mol. Cell 10: 55-67 (2002)
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