理化学研究所脳科学総合研究センター(理研BSI) 理研BSIニュース No.11(2001年2月号)



  新たな幕開け

脳皮質機能構造研究チーム
チームリーダー
Kathleen S. Rockland

脳皮質機能構造研究チームのメンバー(一番左が著者)

 私とRIKENの関係は、10年ほど前、1991年にフロンティア・プログラムの客員研究員として6週間日本に滞在したときに始まります。それから数年の間に、サイエンスの相互交流においても、私的な交流においても、RIKENと強い絆で結ばれるようになりました。このため、認知脳科学研究グループの新しい研究チームのリーダーとしてBSIに加わった際には、単に新たな試みに参加するというだけでなく、あるべきところに身体が落ち着くというような安心感を覚えました。
 新しい研究チーム(脳皮質機能構造研究チーム)を発足する作業は2000年2月にスタートしました。その過程で、場所の入念な計画、機器の注文、新しいスタッフメンバーの募集・面 接といった基本的な段取りをこなさなければなりませんでした。私にとって、これは一筋縄ではいかない作業でした。アメリカと日本の文化の違い、とりわけ、私が日本語の書き言葉も話し言葉も理解できないということが事を一層面 倒にしました。幸いなことに、企画課のスタッフと小島久幸博士からきめ細かな援助を得ることができました。小島博士は、上級研究員兼サブチームリーダーとして私の研究チームに参加してくれました。研究室の工事が2000年4月にほぼ完了したので、6月から4人の研究員・技術スタッフを伴いすぐに実験を始めることができました。
 私たちのチームは、システム神経解剖学的手法を中心として、多数の神経細胞集団、その相互結合、機能的意義を研究します。最初のステップとして、動物モデルにトレーサ物質の微量 注入を行い、組織作成の後、光線顕微鏡解析によって結合をマッピングします。さらに高い解像度が必要な場合は、電子顕微鏡や共焦点顕微鏡観察を行うこともあります。さらに特定の亜細胞集団にターゲットを絞ったり、可逆作用を起こしたりする新しいトレーサーも利用できるようになってきています。こうした神経回路網の組合せと相互作用は多量 のデータセットとなり、遺伝子チップマイクロアレイと同じように、直感を瞬時に撹乱することができます。
 多数の神経集団の協調活動がどのようにして特定の機能になるかという問題は、眼球運動や反射行動など特定のサブシステムについては解明されましたが、もっと高度の皮質機能については研究はまだ入り口段階にあります。例えば、霊長類の下側頭葉皮質は、行動生理学実験とシングルユニット生理学実験から、物体認識に関与していることが分かっています。この領域の基本的な結合性も判明しており、この機能との整合性もとれています。しかし、実際の神経基質・機構はまだ解明されていません。相互に結合した神経集団は、知覚経験となる視覚表現をどのように形成するのでしょうか?  BSIの学際的な伝統はこの種の研究に適しており、私の研究チームでも生理学的技術を利用し、チームの研究員と共同でこうした問題に取り組んでいく方針です。
 最近の BSI リトリートと3周年記念に参加した際、研究のスコープが、より広い社会的関心事についての人間本質主義的な価値や問いに重点が置かれていることに感銘を覚えました。このことは、サイエンスと、RIKENのような新しい機関に対して一般 から強い期待が寄せられていることを適切に認識していることの証左であるように思われました。一方で、世界にはルネッサンス時代のように新しい変動が起こりつつあります。人間条件のきわめて多くの側面 に関係している脳科学がそこで担う役割は大きいでしょう。
 日本に移り住むにあたり、夫のチャールズ・ロックランド(ATDCの上級研究員)とともに日本に来られたことは幸いでした。彼は、統合的な機能に関心があり、パリ、ケンブリッジ、マサチューセッツの同僚研究者と共同で、そうした機能の整合性の問題をテーマにした本を執筆中です。最近 I-House から目白のアパートに引越しました。東京のシティライフを楽しむ一方、朝の通 勤時に論文を読むことも覚えました(まだ新聞を読むようにはなっていませんが)。私たち夫婦は、年末から新世紀(脳の世紀?)にかけてのホリデーシーズンを新しい環境で迎えることを楽しみにしています。

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