理化学研究所脳科学総合研究センター(理研BSI) 理研BSIニュース No.14(2001年11月号



組織病理学のすすめ

(前)プロジェクト管理役 吉川秀夫


 病理学の定義を広辞苑で引いてみると、「医学の一分野で、疾病を分類・記載し、その症状を究め、原因及び成り立ちを研究する学問」とある。この場合の病理学は、自然人の疾病を対象にするものだが、その考え方や分析手法を自然人の集団、つまり特定の目的を持ち、一定の権利能力を与えられた組織体にも適用しようというのだ。それを組織病理学と名付け、新しい学問としておこそうという趣旨である。
 この背景には、組織体も疾患にかかることがあるという認識があって、専門家による診断が行われ、処方・治療が行われて、健康体としてよみがえらせたいという、社会的な要請があるといことである。  組織体内部の自発性疾患が、その兆候を見せ始めると、疾患は常に自ずからその悪化を促進し、病因を増加させる経過をたどる例はまれではない。
 組織病理学による診断では、経営効率を示すような数理的な分析はもちろんだが、人体でいうならば、痛いとか痺れるとか、腫れがあるといった症状を、日常の運営の中から読みとり、どのような病気がどの程度進行しているかを読みとらなければならない。
 そしてその原因を究明する。ただ一つの明らかな原因によることもあるし、多くの潜在的な原因が複雑に絡んだ場合もあるだろう。原因が明らかになれば、その治療法を考え、実際にこれを施すことになる。人体の場合は医者がこれを行うが、組織体の場合は、明確な意図を持った経営者であったり、事業管財人であったりする。
 疾病にかかった組織体の治療は、これは難しい。注射をするだけでよいのか、手術が必要なのか、もはや手遅れなのか。それはまた別 なところで論じることにしよう。
 ここでは組織を構成するメンバーの満足度調査による、組織体の診断の一例を挙げる。チームもしくはプロジェクトで集計して平均値をもとめ、すべての項目の目標値を4として、どのくらいの乖離があるかで判断してほしい。

参考資料  プロジェクト・チームの満足度調査
領域 I プロジェクト環境
チームワークは上々で、情報が共有されている。
困ったことがあっても、力になってくれるメンバーがいる。
自分のスーパーバイザーから的確な指示・レビューを受けている。
仕事場は、働きやすい環境に整備されている。
リーダー(サブを含む)による管理が上手になされている。
   
領域 II 能力
問題があっても、メンバーと協力して解決策を見つけ出している。
仕事を進める上で自分の能力に不安はない。
現在の仕事で、自分の能力は高くなると思う。
チームに対する自分の貢献度は高い。
新しい知識・スキルが身につくように思う。
   
領域 III モチベーション
職場にきて、さあ今日もがんばるぞという気分になる。
目標を達するために、最大限の努力をしたい。
夜の就眠時に、職場に対する不安はなく、ぐっすりと眠れる。
今の仕事は自分にとってエキサイティングだ。
チームの目標を成功させる自信がある。
  (F-Y改)

それぞれの設問に対し、5段階で評価して集計し、平均値を求める。
(組織の目標値=4)
非常にそう思う。
そう思う。
どちらともいえない。
あまりそう思わない。
まったくそう思わない。 

筆者略歴:1959年-1994年まで日本原子力研究所にて、企画・国際協力・財務・総務の各部門に従事。その間、科学技術庁計画局及び、新技術開発事業団に出向。1995年から海洋科学技術センタ-監事。1997年、むつ科学技術館館長。1998年、有馬朗人参議院議員政策担当秘書。2000年より理化学研究所脳科学総合研究センタ−。 科学技術史関係の著作多く、主な著書に「科学は国境を越えて」「原子力/時代を先駆けた男達」などがある。


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