理化学研究所脳科学総合研究センター(理研BSI) Brain Science Institute



Interview
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RIKENの桜の下で、右から3人目がニール・ヘスラー チームリーダー

発声行動機構研究チーム
チームリーダー ニール・ヘスラー


鳥はどうやって歌を覚えるのか
 脳科学総合研究センター東棟4階にある発声行動機構チームのチームリーダー、ニール・ヘスラー氏の研究室を訪ねると、若草色の家具でコーディネートされた部屋の窓辺に、隣接する丘に向けて置かれたフィールド・スコープが目につきます。
 高校生の頃までは、とりたてて鳥や動物が好きというわけではなかったというヘスラー氏が、研究の合間に、このスコープで小鳥を眺めるのが楽しみというまでになったきっかけは、研究の題材としてソングバード(スズメ目鳴禽類に属する、歌を歌う小鳥)の一種キンカチョウ(錦華鳥)を選んだことでした。
 キンカチョウは、ジュウシマツやブンチョウの仲間でカエデチョウ科に属する小鳥です。ソングバードの仲間はさえずり方の学習においておもしろい特徴がわかっています。「キンカチョウでは生まれて2〜3週の頃、父親の歌(さえずり)を聞くことによってさえずり方を学んでいきます。この時期に親鳥と一緒にいないと、成鳥になってからではさえずり方を覚えることができないのです。父親の代わりに、録音した成鳥の声を聞かせてもダメですし、別の巣から聞こえてくる成鳥の声を聞いても覚えません。ヒナと父親との互いの働きかけがあってこそ、ちゃんとさえずれるようになるのです。」とヘスラー氏。かわいい手描きのイラスト入りのボードを使って説明してくれます。
 人間にとって声を出して話をすることはごく当たり前のことですが、発声行動ができるようになるためには“学習”が必要です。ソングバードは、同じように“学習”を行なう数少ない動物です。発声行動機構研究チームはそれらの中でも“学習”についての特徴がわかっているキンカチョウを調べることによって、ヒトが複雑な学習を経て発声行動を習得するための神経回路網と生理的機構を明らかにしようというものです。
 ヘスラー氏がもう一つテーマとしているのは、鳴いているときの状況によって、脳が受ける刺激にどのような違いがあるかということ。「たとえば、成鳥が一羽だけでさえずっているときよりも、他の鳥に向かって鳴いているときの方が、神経活動が促進されることがわかっています。つまり、鳥の歌唱と脳活動に対して社会的な影響があるということです。ヒナが発声を覚えるときに、親鳥とヒナとの間の“コミュニケーション”が必要なことともあわせて、非常に興味深く思っています」

一番嬉しいのは研究に没頭できること
 ヘスラー氏は来日して1年あまり。日本での研究生活はなかなか快適とのことですが、やはり言葉の壁を感じることがあるとか。「日本語も勉強しているのですが、覚えるのは大変。私の研究が進めば、もう少し楽に日本語を覚えられるのですが」と、いたずらっぽく笑います。「日本での研究生活で私がすばらしいと感じているのは、実際の研究以外にとられる時間が少ないこと。米国では予算の獲得も研究者自身がすべて行わなければならないので、その活動のために研究のための時間を削らなくてはならないのをとても苦痛に感じていましたが、ここ理研ではその必要がありません。米国の研究者仲間にそのことを話すと、皆ずいぶんとうらやましがっていましたよ」研究者としていちばんうれしいのは実験に没頭している瞬間……というヘスラー氏ならではの言葉です。
 来日まで日本のことはほとんど知らなかったというヘスラー氏ですが、机の上には小さな盆栽が置かれ、壁には小鳥を描いた和風の切り絵が飾られています。「スタッフの皆が気持ちよく過ごせる研究室にしたいから」と語るヘスラー氏ですが、ヘスラー氏ご自身の好みも色濃く出ているように感じました。
 最初はあくまでも研究の対象でしかなかった小鳥に、今では「とても可愛くて大好き」と目を細めるようになったヘスラー氏のこと。もうしばらく日本に滞在するうちに、「日本が大好き!」と、なるかもしれません。


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