理化学研究所脳科学総合研究センター(理研BSI)Brain Science Institute



ストレスホルモンが小脳のシナプス可塑性に特異的な役割を担っていることを発見
─脳の学習機能の解明に道を開く─


 記憶学習機構研究チーム
 記憶学習機構研究チーム、宮田麻理子基礎科学特別研究員(現東京女子医科大学第一生理学教室助手)らは、ストレスによって脳内に分泌されるCRF(コルチコトロピン放出ホルモン)が小脳の運動学習の基礎過程である長期抑圧(注)を起こすうえで必要であることを発見しました。

 CRFはストレスホルモンとも呼ばれ、脳の視床下部や扁桃体といったストレスに対する反応に関与する部位に含まれています。また、従来より小脳の登上線維にも含まれていることがわかっていましたが、小脳でのCRFの働きについては不明でした。

 今回の発見は小脳の学習機能にホルモンが関与することを世界で初めて明らかにしたものであり、また運動学習が一種のストレス反応の性格を持つ、ということを具体的に示した結果でもあります。これらの成果は今後の脳の学習機能の解明に極めて大きなインパクトを与えるとともに、スポーツ医学やリハビリテーションの分野に示唆するところも大きいと期待できます。

 本研究の成果の詳細は、平成11年4月23日に発行されたNeuron誌(米国)で発表されました。


(注)記憶を司る海馬で起こる通常の学習過程では、情報の刺激により神経細胞どうしの連結部位であるシナプスでの情報の伝達効率が促進されます(これを長期増強という)が、運動学習を司る小脳では、逆に情報の刺激によりシナプスの情報伝達効率が長期間抑制される現象が起こります。これを長期抑圧といいます。


Miyata, M., Okada, D., Hashimoto, K., Kano, M., and Ito, M. Corticotropin-Releasing Factor Plays a Permissive Role in Cerebellar Long-Term Depression Neuron, Vol. 22, pp.763-775, April (1999)


理研BSIニューストップ

理研BSIトップ
理化学研究所脳科学総合研究センター(理研BSI)
Copyright All Rights Reserved.