Q 先生がこの病気の研究を始めたきっかけは?
A. 私はもともと神経内科医でしたので、多くの神経変性疾患の患者さんを診察してきました。その中には遺伝性の疾患が多く、原因となる遺伝子も不明でした。治療も困難で、症状を抑えることや励ますことが唯一できることでした。 ところがこの10年ぐらいで、これらの疾患の遺伝子異常を見つけることができるようになりました。しかし、遺伝子異常がわかっても、その疾患の発症機序がわからず、結局診断がついても治療法がない、あるいは未発症者の遺伝子診断はできるのに発症予防ができないというジレンマに直面しました。 そこで、こうした遺伝性の疾患の発症機序の解明や、それに基づく発症予防の研究をしたいと思ったわけです。CAG リピート病は共通の機序に基づく疾患群です。そのため、その病態の解明は、比較的多くの患者さんの治療やその家族の発症予防を可能にすると考えました。また、このような研究を推進することにより、一つの遺伝子の異常による病気(単一遺伝子病)の病態解明にも波及効果があるのではないかと考えたわけです。
Q これまでにどのような研究が行われてきたのですか?
A. CAGリピート病のように、細胞が何も残さず死んでいく病気の研究は困難です。しかし、その壁を破ったのがポジショナルクローニングという研究方法です。遺伝性脊髄小脳変性症の研究では、DRPLAや MJD、SCA2という病気の原因遺伝子が日本で同定されました。こうした成果の基礎には、臨床病理像を分類してきた神経内科、神経病理学者の貢献があると思います。 最近では他の基礎研究にならい、私たちの研究分野でも、遺伝子産物の同定とその機能を調べるための細胞内での発現の研究、遺伝子のノックアウトマウスの作成、異常遺伝子を導入したトランスジェニックマウスの作成などが行われています。
Q ポジショナルクローニングとは?
A. 現在では、染色体の様々な位置に数多くの遺伝子マーカーがあり、これを基に遺伝性疾患の解析を行います。これらの遺伝子マーカーには、遺伝する多型というものが存在します。ある病気では、発症者がみんなある遺伝子マーカーのパターン A を持っていて、未発症者が他のパターンだったとすると、遺伝子マーカーのパターン Aの近くに原因遺伝子があると考え、さらに原因遺伝子の決定をめざして細かい解析を行っていきます。 このような方法で、従来生化学的に原因物質を同定できなかった疾患に関しても、原因遺伝子の同定が可能になってきました。しかし、この方法をもってしても、病気の発症機序は不明のものが少なくないんです。
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