理化学研究所脳科学総合研究センター(理研BSI) Brain Science Institute



  新設されるBSI中央研究棟動物飼育施設について

先端技術開発センター
専門職研究員
杉山芳宏

動物飼育施設のスタッフ(後列左から2番目が筆者)

 昨年、大学の動物実験施設から転勤してきた私は、当時東研究棟の飼育室18室、約4,000ケージしかない状況の動物施設を見て、大学とさほど変らない印象を持ちました。と同時に大学レベルよりは飼育に従事する人員体制が充実しており、スタッフの動物飼育管理の知識も豊富で充実した飼育管理が行われていることにも気付きました。そして、私が理研の環境に馴れ始めた昨年5月、BSI中央研究棟動物実験施設(1期分)が完成し、今年7月には残り2期分も完成する運びとなります。
 中央研究棟動物実験施設はすべて完成すると飼育ケージ2万余個を配し、最大約12万匹の実験動物収容能力を持ち、マウス、ラットのみの飼育規模では日本でも最上位に位置することになります。この施設は遺伝子改変動物の作製、飼育、繁殖を目的としたものであり、動物飼育にはすべてマイクロベント飼育装置を用い、ケージ単位の換気ができる最新飼育ケージを備えています。この飼育装置により、ケージ内の空気のアンモニア濃度の低下、および湿度の安定化、清浄空気の供給ができます。またこれはケージ内部を陽圧にして、病原体などのケージ内侵入を防止することができる利点もあります。飲み水は水道水を直接使用することなく、逆浸透膜により実験に飲水が影響しないように純化した水を、餌はすべて放射線滅菌した飼料を用いています。
 さらにすべての飼育室には各種センサーを設置し、飼育環境の24時間監視を行っています。最もクリーンなエリアは、主に繁殖、長期飼育実験(系統維持、老齢化、実験繁殖など)を行い、クリーン度を保つことを最優先し、遺伝子改変動物を作製するための装置、機器もこのエリアに準備されています。セミクリーンエリアは、動物実験実施の場と考え、繁殖、長期飼育は原則として禁止してクリーン度を保ちながらも、動物実験の実施し易さを重視しするため、施設外へ動物を持ち出さなくても良いように、エリア内の実験室には各種行動観察実験装置が完備されています。このようにクリーンエリアで繁殖した動物をセミクリーンエリアで飼育して実験するという流れとなっています。
 また、当施設では実験動物は特定の病原微生物を保有しないクリーンな動物を搬入することにしており、定期的に微生物検査を実施していない施設からの動物搬入を禁止しています。これらはすべて作製した遺伝子改変動物を不可抗力で損失しないための配慮であり、そんな日本トップクラスのハードも管理運営ソフトが悪いと十分機能を活用しきれていないことになりかねないため、私もソフトの充実のために振り回されている毎日です。

 私は動物実験施設設計には関与していないため、その利用目的、設計意図などに付いて不明な点が時としてありますが、逆に設計者の意図を推測しながら、施設運営に係わるのも面白いものです。ただ、現時点で強く主張したいことは「1つの動物施設を半分に分割して建設しては絶対にいけない」ということです。昨年完成している施設では動物飼育・実験をしており、そこに新しい施設を建設、接続融合させようとするのですが、工事の過程で建物同士を付けるのは機械的作業で事は足りるのですが、生物学的環境の清浄度を保つのは難しい。このような動物施設の立上げは国際的にもまれなケースであろうと思います。個々に独立した施設ならば、苦労なく立上げができるだろうにと、2期工事完成直前に建築現場を眺めながら思っています。

 研究者の実験実施への欲望は大きく、自分の研究が第一ですから、このような大きな実験動物飼育施設さえも完成後、あまり時を経ずに実験動物で満杯となるのでしょう。今後も研究者間の施設利用調整の業務は続きます。 表紙写真 発達期の視覚回路は視覚経験によって形づくられる。眼からの入力による視覚回路の発達は、生後の限られた時期(臨界期)にしか起こらない。皮質の抑制性を早期に高める(青矢印)あるいは、低いレベルに保つこと(赤矢印)により、それぞれ臨界期(黄色部分)の時期を早めたり、遅らせたりできる。

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