理化学研究所脳科学総合研究センター(理研BSI) 理研BSIニュース No.17(2002年8月号)



先端技術開発センターに新チーム発足
 本年4月1日に、先端技術開発センターの5番目のチームとして、ニューロインフォマティクス技術開発チーム(臼井 支朗チームリーダ)が発足しました。本チームでは、膨大に蓄積されつつある脳・神経情報科学に関する研究成果を如何に体系化していくかという問題に取り組みます。当面は視覚系を中心に、そのデータベースの構築、関連する数理モデル、データ解析ツールの開発、そのための基本技術など統合環境の開発研究を推進していきます。チームリーダの理念は、「このラボへ行ったら何か面白いことができる」という雰囲気を作ることです。ニューロインフォマティクスという新しい分野で、若い感性を生かして議論し、競争し、協力し、世界のノードの一つとなることを目指しています。
RIKEN-MIT 脳科学研究センターリトリート
 6月10日~12日の3日間にわたり、米国ボストンのマサチューセッツ工科大学(MIT)Picower Center for Learning and Memory(PCLM:センター長 利根川 進博士)主催のリトリートが開催されました。RIKEN-MIT脳科学研究センターは、PCLMの一部であるため、理研BSIからも、8名の研究者が参加いたしました。ボストンから約2時間のドライブで、リトリートの開催地であるKennebunkport(メイン州)に到着いたします。目の前には、大西洋が広がっていて、リトリート本来の意味である、日常の場を離れて、リラックスした環境でのびのびとディスカッションをするには最適な場所でした。各ラボから1~2名が講演をおこない、また、ポスターセッションもおこなわれました。印象的だったのは、講演も、ポスターセッションも若手の研究者、大学院生が中心におこなっていることです。総勢140名の研究者、大学院生の参加があり、活発な質疑応答、ディスカッションが連日おこなわれていました。このような場が、将来、世界の脳科学の牽引する人材を育て、また新しい学問の誕生のきっかけ作りに役立ち、世界の科学の貢献に役立つことを確信しました。
先端技術開発センター
技術開発チーム研究レビュー委員会の開催
 6月17~19日の3日間にわたり、先端技術開発センター技術開発チーム(板倉 智敏グループディレクター、所属4チーム)の研究レビュー(評価)委員会が開催されました。委員会は、Prof. Alexander Robert Lieberman(ロンドン大学)を委員長とする12人の委員で構成され、グループ全体についての評価結果(概要)は以下のとおりでした。
 まずレビュー委員会は、ATDC技術開発チームが二つの任務(新技術開発とBSIにおける研究支援)を持つという前例のないコンセプト、各チームの研究技術基盤の性質と程度の著しい差異、二つの任務がもたらす緊張状態と困難性などから、今回の評価はチャレンジングな作業であると認識した。しかし、そのような困難はあったが、委員は評価結果について多くの点で合意に達した。

・ ATDC技術開発チームは、総体的には 設立時の目的を実行している。これらのチームは有益に機能し、他の多くのチームの研究活動を支えている。よって委員会はATDCが次期5年間現状で継続されることを推奨する。

・ 4つの技術開発チームは、それぞれ異なったレベルとタイプの研究支援を行い、かつまた程度差はあるものの技術開発とその普及を実施し、BSIの広範な研究活動へのリソースとなることへの期待に十分に応えている。前述した研究チームの状況差について見ると、神経構築技術開発チームは他のチームに極めて高い水準の、かつ広範囲の研究支援を行っているのに対し、細胞培養技術開発チームの研究支援技術は限定されている。

・ 委員会は4つのチームすべてが、少なくとも次期5年間、BSIの研究支援あるいは他のチームの研究のための技術革新に対し、引き続き重要な役割を果たすと考える。従って4つのチームは継続してATDCに位置付けられることが妥当と考える。ただし、細胞培養技術開発チームは、研究目的が特化していることから、発生・分化研究グループの下でも機能すればより研究効果が上がるものと考える。神経構築技術開発チームについては、焦点を絞った研究を継続して行うことが極めて困難であろうことは理解できるが、次期5年間には1ないしそれ以上の焦点を定めた研究を行うように努め、研究上の問題意識に裏打ちされた技術開発に従事することを勧める。

・ 細胞機能探索技術開発チームは新しい機器を整備するためのスペースがないとの制約を受けている。このチームの業績とポテンシャルは顕著であることから、グループディレクター並びにBSI所長はその制約解消に配慮されたい。
理研-MIT脳科学研究センター
レビュー委員会の開催

理研-MIT脳科学研究センターレビュー委員会の開催
 6月17日~18日の2日間にわたり、理研-MIT脳科学研究センター(利根川 進グループディレクター、所属6研究チーム)の研究レビュー(評価)委員会が開催されました。委員会は、Prof.Eric Shooter(スタンフォード大学)を委員長とする6人の委員で構成され、グループ全体の評価結果は以下のとおりでした。

・ センターの各メンバーにより紹介された卓越した研究内容、それと同時に利根川博士の卓越したリーダーシップに対して、委員会のメンバーは感銘を受けた。理研脳科学総合研究センター(BSI)がハイレベルで進歩的な科学を支えていることは明らかであり、またBSIがBSIの使命及び神経科学の分野全般に及ぼしている理研-MITセンターの影響について極めて好ましく感じていることも明らかである。

・ センターの4人のチームリーダー(利根川・ミラー・ウィルソン・リュウ)は傑出した科学者かつ生産的な科学者である。それぞれの分野で研究をリードし、神経科学のコミュニティで高い注目を集めている。2人のチームリーダー(林・シェン)に関してはセンターに最近加わったことを考慮の上、委員会は研究グループに加わる前に行われてきた研究を中心に彼らを評価した。それにも関わらず、二人とも強力な研究計画を持ち、センターに良い形で加わっていることに委員会は同意する。

・ 理研ーMIT脳科学研究センターは、BSIの国際的な視野を拡げるために効果的かつ良好に機能している。センターのメンバーは、BSIリトリート、シンポジウム、サマープログラム等、BSIとMITとの膨大な行き来の中で、BSIの科学者との交流を大いに価値あるものと考え、またそれを楽しんでいる。時間が経過して比較的短いが、BSIとセンター間での研究者の相互派遣や交流は良いスタートを切っており、今後確実に増大させるべきである。科学者が接触する機会を自然に増加させる要素が、そこには存在している。それは、すなわち脳科学や行動科学における共通の研究の関心であり、またBSI及びMIT双方におけるトップレベルの研究の質である。

・ 委員会は、センターの利根川教授のリーダーシップに対して深い感銘を受けた。彼の啓発的な指導を通して、また、協調的な精神によって、利根川教授は分野横断的な協力や協調の中で研究を行う科学者達のグループを育て、まったく先例のない科学的なレベルでの学習と記憶の研究を共同で遂行している。その組織や有効性、彼のリーダーシップにおいて、理研-MITのグループは、日本はじめ世界の研究室に対して、この種の分野横断的神経科学における新しいプログラムのモデルとして機能している。
御子柴グループディレクターが紫綬褒章を受章
 2002年4月29日春の褒章発令において、御子柴克彦グループディレクター(発生・分化研究グループ、修復機構研究グループ)は学術、芸術上の発明、改良、創作に関し、業績の著しい方を対象とする紫綬褒章を受章しました。
 今回の受章は、脳の発生と分化の分子機構の解明における多大な業績、とりわけ、IP3受容体の発見と構造・機能の解明、神経細胞の位置決定や脳の発生・分化にかかわる分子の発見など脳科学研究の発展に多大な貢献が認められまた、これらの研究が、従来のコンセプトを変え、脳の発生・分化の理解、脳障害発現の機序解明に大きく貢献したことに加え、人材育成に尽くしたことが高く評価されたことによります。
尾崎 美和子研究員
日本女性科学者の会奨励賞受賞
 尾崎 美和子研究員(神経構築技術開発チーム)は、6月16日、日本女性科学者の会(鈴木 益子会長)より第7回日本女性科学者の会奨励賞を受賞しました。これは、尾崎研究員の、脳の神経ネットワークの構築と可塑性についての研究業績が、国際的にも高く評価されたことによるものです。本年度は2人が受賞しました。



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