理研BSIニュース No.25(2004年8月号)

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Brain Network

Thomas Knöpfel

BSI の成長を見て

神経回路ダイナミクス研究チーム
チームリーダー
Thomas Knöpfel


8年前、日本の和光という町に、RIKEN の新しい脳科学研究センターが設立されるという話を聞きました。このまだ設立されていない研究機関のチームリーダーとして応募してみないかと、伊藤正男グループディレクターからお話を受けた時には、本当に興奮したことを覚えています。それから今までの歳月、私は、そのすばらしい誕生と、青年期の今日を迎えるまでに成長したBSIを見つめてきました。現在私の研究室が置かれている脳科学中央棟も、当時、旧西棟に一時間借りをしていた私の当に目の前で、建ち上がっていきました。1997年に私が日本の脳科学研究センターへ来る事を決めた時、良い決断であると認めてくれる同僚はほとんどいませんでした。しかし、今では、私がRIKEN脳科学総合研究センターの所属であるというだけで、一目置かれるようになったのです。


初期の発展

BSIでの最初の年を思う時、まず、出来事がすべて、私の予想をはるかに越えて大変ポジティブな活気に溢れていた事を記しておくべきでしょう。私は一科学者として実験を数多くこなしてきましたが、新しい研究施設の創設というような、大きなスケールの革新的実験状況には遭遇したことはありませんでした。この実験プロトコルの特徴は、資金が豊富であること、実験逐行に最適な環境が整っていること、そして若い研究者達が中心となっていることでした。ここでの仮説は、人材はトップサイエンスを生み出す組織構造と物的資源と共に成長していく、です。そしてこの実験では、“OK!Let's Just do it”の精神による“Hot Start”アプローチの存在を確認しました。私は、この精神が成功のための重要なファクターであったと考えています。もちろん、このようなホットスタートでは、少々の火傷はつきものであり、発生生物学において観察されるように、成長のある一時期に一時的に現れて消えていく過程や構造もあります。上記実験における最初の成果は作業仮説に従ったものとなり、BSIの初期段階は、各研究チームにおける5年毎の外部レビューの第一回を一巡することで終了しました。


成年期への移行

このメタファーに沿うとBSIは現在、その青春を謳歌しています。人生のこの時期には『Who I am』とか『What are my most important goals?』という質問が起きてきます。年を取るということはまた、安定と独立とについて考えるということでもあります。したがって、昨年の政府機関から「政府出資私有」機関への移行(=独立行政法人化)はタイミングの良いものでした。これまでの快適さや安心感が一時期失われることになっても、この独立行政法人化は、きっと有意義なものになるでありましょう。科学の最前線において、私たちはこれまでに受け継がれてきた科学遺産からでは生きてゆくことはできず、真のBSIの業績とビジョンに基づいて生きてゆかねばならない、そのことを実感しています。


BSIは、脳科学研究の分野で主導的な役割を担い設立されました。この観点において、過去の、そして今の新しい組織構造や管理概念と比較した場合、 BSIはどうでしょうか?私の理解するところでは、BSIは日本の教育制度が進めている改革を先導していました。そのため、若い世代の研究チームリーダー(ほとんどが40歳代)に、大変大きな責任が与えられています。これは、組織の上層部から形式上独立する事で、革新的な概念の逐行が容易になり、かつ促進されるというアイデアによるものです。BSIが草分けとなっているもう1つの要因は、成功のための重要ファクターの一つとして、国際的な開放を認識していることです。BSIの多くの(残念なことに「全ての」ではありませんが)研究、管理業務は、世界の科学者の共通語である英語で行われています。科学者のおよそ20%は海外から募集されており、この割合を30%に増やすことが目標とされています。この国際化の傾向は更に続き、2005年(9月)に開設が予定されている新しい大学院大学、沖縄科学技術大学院大学(OIST)では、学生の50%は外国人、また国際言語採用方針の強化することを目標としています。ここで私は国際化について、通常「西洋」文化(北米中心となっている)と呼ばれるものと同じに設定すべきでなない、と思うのです。もし何かモデルが必要ならば、私はヨーロッパ人としてヨーロッパの方法をミックスさせたいのですが、同時に、現在日本に数年滞在して、国際的文化のミックスされた中に「東洋的」なスパイスを効かせた形を評価しています。私としてはテンプレートについて考えるよりも、BSIが純粋なスタイルを発展させることを望んでいます。もちろんこの「BSIスタイル」は、グローバルな標準とは最大限に両立可能でなければなりません。また言い換えると、25%とか50%の外国人を受け入れることを目標とするのではなく、100%を国際人と考えるべきでしょう。そしてまた、このコンセプトは、明治時代の言葉「和魂洋才」(「BSINEWS」 2003年2月号Brain Network参照)が進むべき道に対する最良のアドバイスとなるのではないかという論点を、解決へ導くものとなるのではないかと思うのです。


成年期BSIへの希望と期待

これからのBSIの独自の成長のためには、長期的安定とそして研究者にとって最高の施設であることを目指して、体制を整えていかなければなりません。成熟したアカデミックな文化や、できる限り目に見えて透明性のあるビジネス倫理を発展させていく必要があるでしょう。そしてBSIが成年になって、いろいろな部分でもう少し真面目になる必要があっても、それでも時にはまた子供っぽくなって、最初の精神“OK! Let's do it”に立ち戻ることが妨げられてはならないのです。



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