私たちは、こうした評価を謙虚に受け止めるとともに、自信を持って新しい展開を行いたいと考えています。脳の研究はそう簡単なものではありません。脳の優れた高次機能はシステムとしての脳が発現するもので、私たちの精神活動と高度の情報処理の源泉です。情報を創発するシステムの基本原理を、脳を創る領域の立場から確立したいのです。これは人間の理解につながります。21世紀の脳科学は、人間の情報科学でもあるのです。
「脳を創る」領域は新しい概念でまだ確立したものではありません。優秀な人材をこれから育て、脳と情報にかかわる新しい学問を創っていくのが私たちの役目なのです。私たちは身を引き締めて、世界の第一線を走っていきたいと思っています。
私自身の夢は、新しい脳型の情報科学を数理的な体系として確立すること、このための優秀な人材を育て世界に送り出すことです。世界で将来指導的な活躍をする研究者を輩出し、彼等に若いときに理研に籍をおき、これによって自分の学問が確立できたのだと感じてもらえれば、これに勝る喜びはありません。BSI は、一方ではたいへん厳しい競争に揉まれる戦略研究の世界ですが、それと同時に学問の世界で自由に冒険できる楽園であってほしいと思います。
しかし、細胞レベルでの測定が、fMRI あるいは別の新しい非侵襲計測法で実現できる見通しは今のところありません。実験動物での研究をすべて人間での研究に置き換えるわけにはいきません。実験動物での研究と人間での非侵襲計測法での研究は、脳科学の発展において相補的な役割を果たしていくと期待されます。