こうして1997年10月に BSI が発足し、それと同時に私たちのグループは BSI に移り、脳を創る領域の中核として、その立ち上げに関係することになりました。また、チームの名称も、現在の「情報創成、脳回路モデル、開放型脳システム」の3研究チームに変わりました。しかし、研究の本質が変わったわけではありません。しかも、創る領域では、松本元ディレクターが率いる脳型デバイス・ブレインウェイ研究グループが発足したこともあって、焦点が鮮明になってきました。
そうこうするうちに、フロンティア時代から数えて4年が過ぎ、当初の約束どうり今年2月に研究レビューを迎ることになりました。これは、BSI としては初めてのものであり、研究レビュー委員会(外国人6名、日本人3名)を構成して本格的なレビューが行われました。レビューというと身の引き締まる思いがしますが、その一方で私たちの研究成果を国際的に評価してもらい、さらに将来について有益な助言がもらえればたいへん役に立ちます。もちろん、評価が悪くて、研究チームが打ち切りになることも十分に有り得るのですが。
各チームの活動の成果
情報創成研究チームは、この4年間に脳における情報処理の基本原理を探求し、これを新しい脳型の数理情報科学として確立するという大目標に向けて努力してきました。具体的には、情報幾何学という我が国で確立した新しい数理的な方法を用いて、神経回路網の情報処理能力とその特徴を明らかにすること、さらには神経学習のたいへん効率の良いアルゴリズムを提唱し、その効果を理論的に示したことです。こうして、脳型計算理論の分野では世界をリードすることができました。一方、現実の脳の仕組みに密着したより具体的な研究も、実験系の人達と協力しながら海馬、大脳基底核、またパルス情報表現などの研究が進行中です。この他、独立成分解析の仕事もあります。私たちのチームは、脳の理論的な研究を行う世界の研究所の一つとして、BSI が 一目置かれていると自負しています。
脳回路モデル研究チームは、理論の立場から大脳皮質のコラム構築の基本様式を研究し、ホモトピーという数理的な構造がここで大きな役割を果たしていることを発見しました。それだけでなく、理論が予見する構造、とくに発達初期の構造の形成を確かめるために、理論の立場から新しい実験方式を設計し、オプティカル記録法を使って生理学実験を開始して成果を収めています。理論家が自分で実験を行うことはたいへん勇気のいることですが、理論と実験の溝を埋めるために自分達で実験を手掛けることは必要で重要な一歩です。このことは高く評価されてよいと思います。
開放型脳システム研究チームは、脳型並列計算やカオスダイナミクスの研究を進めるかたわら、次第に脳データの新しい解析法に焦点を合わせてきました。脳のデータとしては、多重電極記録、EEG や MEG などの脳活動に伴って生ずる電磁場の記録、fMRI やオプティカル記録などの脳活動の画像記録があります。近年、独立成分解析と呼ばれる新しい解析手法が提案され、国際的に大きな反響を呼んでいます。このチームは情報創成システム研究チームと協力して、独立成分解析の効果的な手法を提案し、さらにこの手法を大きく発展させて、世界から注目されるようになりました。
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