理化学研究所脳科学総合研究センター(理研BSI)Brain Science Institute



小脳 LTD に関与する NO 下流因子を解明

 記憶学習機構研究チーム
 記憶学習機構研究チームの伊藤正男チームリーダー、遠藤昌吾研究員、神経遺伝研究チームの山川和弘チームリーダー、森田良治研究員らは小脳の長期抑圧(LTD)の分子機構に関与する候補分子として PKG 基質 G-substrate を同定し、その生理的役割を初めて明らかにしました。

 小脳 LTD は海馬 LTD とは全く異なる分子機構で引き起こされます。様々な系でその作用が注目されている一酸化窒素(NO)は小脳プルキンエ細胞内で可溶性グアニレートサイクレースを活性化し細胞内 cGMP 濃度を上昇させます。cGMP は cGMP 依存性プロテインカイネース(PKG)を活性化します。この一連の反応は小脳 LTD に必須ですが、PKG の基質となるタンパク質の同定とその役割の解析はなされていませんでした。PKG 基質として分子クローニングされた G-substrate は小脳プルキンエ細胞に特異的に発現していました。さらに、リン酸化された G-substrateがホスファテース(PP1、PP2A)の阻害剤として働くことを発見しました。

 NO で開始される一連の反応でリン酸化されたG-substrateがホスファテースを阻害し、AMPA 受容体のリン酸化状態が維持されます。リン酸化された AMPA 受容体の脱感作や細胞内への取り込み、さらには、記憶学習機構研究チームの平井研究員が報告した受容体の再分布(BSI News No.5参照)などの機構を介して、AMPA 受容体の機能低下がおこり、小脳 LTD を惹起する可能性が考えられます。



G-substrate mRNAの発現をin situ hybridizationで解析しました。G-substrateはラット小脳プルキンエ細胞に特異的に発現しています(ブルーのスポット)。この解析は神経構築技術開発チームのFengyi Liang研究員、端川勉チームリーダーとの共同研究です。

Endo, S., Suzuki, M., Sumi, M., Nairn, A. C., Morita, R., Yamakawa, K., Greengard, P., and Ito, M.
Molecular identification of human G-substrate, a possible downstream component of the cGMP-dependent protein kinase cascade in cerebellar Purkinje cells
Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96, 2467-2472 (1999)


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