1-1. 脳の目的
脳は情報を処理するための仕組み(アルゴリズム)を自ら獲得することが目的である。このために、まず何の情報のアルゴリズムを獲得するかがなくてはならないので、情報をも自ら選択する。脳が情報の選択とそのアルゴリズム獲得が目的であるならば、脳からの出力は、脳がアルゴリズムを獲得するための手段となっているのではないか。言い換えると、脳のアルゴリズム獲得の基本的構成法は、出力依存性ではないか、との仮説を設定した。脳のこの構成原理は、学習というアルゴリズム獲得の機能とそのための脳の構造を構成する原理でもあり、脳のあらゆる階層構造を貫いて成り立つ構成原理であると考えた。この立場から、脳とコンピュータの本質的違いは目的と手段が入れ替わっているということにある。
1-2. 脳の情報原理
脳は、獲得したアルゴリズムを神経細胞及び神経細胞系の構造やその活動の変化として学習・記憶し、固定化するので、脳のアルゴリズムは、たとえていうと、脳という表引きテーブル(ルックアップ・テーブル)の中に貯えられたメモリとして存在する。脳への入力情報は、このルックアップ・テーブルのいずれかの答えを引き出す検索情報として用いられる。脳が答えを引き出すと(出力すると)、引き出されたアルゴリズムは、出力依存性学習によって書き変わるように仕組まれている。すなわち、脳はメモリベース・アーキテクチャ(メモリ主体方式)の情報処理システムである、という仮説を設定した。
1-3.
脳の構成原理
“脳を創る”という立場の原点は、生物の進化プロセスにある。生物は、非線形非平衡系を自ら創り出すシステムとして存在するに至って、初めて生物になったといえる。生物は、物質・エネルギー及び情報を選択的に取り出し、生物の中に選択的に取り入れることで、構造と機能を自己組織化する。物質・エネルギーの選択的な流れを創ろうとする欲求と、情報の選択的流れを創ろうとする欲求を、それぞれ生理欲求、関係欲求と呼ぶとすると、これらの欲求を充足する方向に行動規範を作り、行動することで、生物はその構造や機能を自己組織化しながら獲得し、情報として固定化してきた。生物が出力依存型に情報アルゴリズムを獲得し、メモリ主体方式の情報処理を行うことは、脳に限らず生体情報処理全般に対する基本原理であると考えられよう。この原理から出発して進化発展した脳に至るまで、あらゆる階層でこの原理が貫かれている。我々は、脳の構成原理が階層構造の各レベルでどのように表現され、どんな特徴を持つのかについて研究を進めている。
|