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RIKEN BRAIN SCIENCE INSTITUTE (理研BSI)

BSI 新センター長代行が進み続ける理由
サイエンスの発展と何ものにも代えがたい瞬間のために

2017年8月22日

インタビュー by Amanda Alvarez
Photo credits: BSPO

「私はたまたま科学者になったんです」と合田裕紀子氏。たとえたまたまだったにせよ、彼女はいまや理化学研究所 脳科学総合研究センターでチームリーダーとしてニューロン間の結合を解明すべく研究チームを率いながら、センター長代行まで務めている。合田氏は次の世代が科学に興味を持つことを強く願い、また自身が学生時代に夢中になった細胞小器官のひとつであるゴルジ体について、今でも熱く語る。しかし同時に、若者にとって研究者になることがあまり魅力のない選択肢となっているのではないかとの危惧を覚えている。「サイエンスの現場は厳しくもあります。でも、透明性を高め、偏見を無くしていくことで誰もが活躍できる分野になります」

若者は“サイエンス離れ”をしていると思いますか

サイエンスで高い学位を目指そうとする学生が減っている気がします。10年後には若い研究者がいない、という危機が訪れるかもしれません。科学者の労働時間は長く、給料も十分でない。若い人たちはそういったことが生活の質に影響を与えるのではないかと心配しているんです。タイムマネージメントについては日本だけでなく世界中でも問題になっています。例えば過去には研究室のボスより早く職場を出られないとか週末にミーティングがあるとか。でもこういったことは大分改善されてきています。長時間労働が生産性を上げるわけではありません。ただ、基礎科学の研究はすぐに答えが出るものではありません。科学者たちが時間をかけてでも基礎研究に取り組むのは、その先におとずれる「見つけた!」という何ものにも代えがたい瞬間のためなのです。神経科学の分野は特に日本ではまだまだ発展段階で、これから成熟していく過程で若い人たちが大きな実績を残せる可能性があります。「見つけた!」の瞬間はまだまだこれから生まれてくるのです。

インスピレーションを与えてくれるもの

極小の細胞や分子のメカニズムに美しさを感じます。それに、蛋白精製作業は経験で磨かれていく作品のようで、私の趣味でもある料理に似ています。パッチクランプ法で本物の生きている神経細胞の活動を初めて記録するときなどはとてもワクワクしました。脳の美しい構造を蛍光標識するのも素敵です。初めて染色されたニューロンを観察したときには思わず「見て、見て!」とラボ中のメンバーを呼んでしまったほどです。顕微鏡ごしでなはく、自分の目で見ても神経系は美しい。それぞれの機能や役割を理解することも心が躍ります。

これまで、分子から転写、バクテリオファージ(細菌ウィルス)、膜トラフィッキングそして細胞間相互作用とさまざまな分野を研究してこられましたが、化学がスタート地点ですよね?

いろいろなことに興味があって、研究者になることは全く考えていませんでした。両親も進路について何一つ強いることはなく、私自身は様々なアートに興味がありました。そして、科学と数学は言葉の壁がない分野です。私は素晴らしい化学の教授に出会い(先生って本当に大事です)、トロント大学で化学と生化学の二つを専攻しました。学部生ではじめて訪ねたラボはフラスコもギターもあるかっこいい場所で、学生やポスドクたちもみんなとても楽しそうでした。夏の間、化学系のラボに参加した際、実験は楽しかったのですが反応動力学の計測作業はなんだか冷めた感じでした。その後参加した生物系のラボでは教授からみっちり実践的なトレーニングを受けることができました。サイエンスというジャングルを探索していこうと思ったら、手本たる先達の存在がとても重要です。私にとってはポスドク時代のソーク研究所Chuck Stevens先生、博士課程ではスタンフォード大学のSuzanne Pfeffer先生です。転換期はコールド・スプリング・ハーバー研究所で発生神経生物学を履修したことです。当時はまだ軸索ガイダンスに関わる分子については分かっていませんでした。培養細胞(イン・ビトロ)での長期増強が再構成される話をきいたことが、私を次の道に進ませました。

 

“サイエンスは過酷である”ともおっしゃっていますが、学生たちへサイエンスを続けていくようメッセージはありますか

「見つけた!」瞬間の純粋な喜びを忘れないで欲しい。実験をデザインしたり、面白い研究テーマを考えたりするのは価値あることだと思います。ほとんどの場合実験は上手くいきません。それでも、初めて科学に興味をもったときの気持ちを持ち続けてほしいのです。難しいのは自分が「面白い」と感じることがほかの人にとってそうとは限らないこと。まわりより一歩先に進んでいて欲しいけれど、あまり進みすぎていても理解してもらえません。ちょうどいい場所を見つけてそれに挑む方法を自分でデザインする、それがまさにサイエンスがクリエイティブである理由です。神経科学でいえば、問題に挑む方法は変化し続けています。胚性幹細胞ノックアウトマウスの時代から、今はiPS細胞オプトジェネティクス(光遺伝学)、工学とAIの融合などがあります。これからこういった技術がどのように展開していくのかとても興味があります。ただ、チームが単独ですべての技術や方法を駆使して脳科学の問題を解決していくことは不可能であり、サイエンスの分野でもチームワークが進化してきています。ここBSIの様々な分野が融合しているユニークな環境は、サイエンスならびにサイエンスコミュニティーの発展に必要不可欠な、分野をまたいだチームワーク力を育んでいると思います。

サイエンスをもっと間口の広い分野とするには

マイノリティへの積極的優遇措置がまさに必要です。しかし、マイノリティがある程度の実権を持たない限り、しっかりとしたシステムが出来上がる前に成果は埋もれてしまいます。意思決定の様々なレベルや委員会などにもっと多くの女性を登用する必要があります。日本はこの部分でまだまだ遅れをとっています。無自覚な偏見と戦い、サイエンスの場を開かれた環境にしていかねばなりません。私は文化、民族、性別の違いについて敏感に育ちました。サイエンスを誰にでも開かれた分野としていくために、こういった違いに対してもっとオープンになるべきです。透明性を高め、違いを認めていくことがサイエンスをさらに発展させていくのだと思います。

 

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