理化学研究所脳科学総合研究センター(理研BSI) 理研BSIニュース No.11(2001年2月号)



小脳プルキンエ細胞の生存発達はアストログリア細胞に由来するアミノ酸 L-Ser によって支えられる

 神経回路メカニズム研究グループ
 アストログリア細胞は神経細胞の生存発達と機能発現に重要な役割を担っていると考えられていますが、具体的に関与している分子についてはほとんど解明されていませんでした。本研究で、古屋茂樹研究員と平林義雄上級研究員は金沢大学、北海道大学、横浜市立大学との共同研究によって、アストログリア細胞から供給されるアミノ酸 L-Ser が小脳プルキンエ細胞の生存と発達分化に必須の栄養因子であることを明らかにしました。L-Ser は単独でプルキンエ細胞の生存、樹状突起形成、および自発的な膜興奮性の発達を顕著に促進し、その活性は既知のどの神経栄養因子よりも強力でした(図A-C)。
 非必須アミノ酸は全ての細胞で合成できるはずです。ところがプルキンエ細胞は L-Ser の合成に必要な酵素3-phosphoglycerate dehydrogenase (3PGDH)を全く発現しておらず、周囲をとりまくアストログリア細胞であるバーグマングリア細胞がそれを補うかのようにこの酵素を高いレベルで発現していることを見い出しました(図D)。そのためプルキンエ細胞は、L-Ser を必須アミノ酸としてアストログリア細胞にその供給を依存していることがわかりました。  今回の成果はアストログリア細胞の持つ神経栄養作用の理解に大きく貢献するとともに、多様な神経-グリア相互作用のさらなる解明とそれらの応用としての薬剤や治療法の開発にも示唆するものが大きいと期待されます。

A : プルキンエ細胞の生存はL-Ser によって劇的に促進する。
B : L-Ser は樹状突起の発達も促進する。
C : 脱分極刺激に応答する発火パターンの違い。L-Ser が存在しないと未熟なパターンのままである。
D : L-Ser 合成酵素3PGDHのバーグマングリア特異的発現 (赤:3PGDH、緑:calbindin)

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Furuya, S., Tabata, T., Mitoma, J., Yamada, K., Yamasaki, M., Makino, A., Yamamoto, T., Watanabe, M., Kano, M., Hirabayashi, Y. L-Ser and Gly serve as major astroglia-derived trophic factors for cerebellar Purkinje neurons. Proc. Natl. Acad. Sci. USA Vol. 97, pp. 11528-11533, October (2000)



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