理化学研究所脳科学総合研究センター(理研BSI) 理研BSIニュース No.13(2001年8月号)



 神経蛋白制御研究チーム
 チームリーダー 西道隆臣

現在、研究室のある中央研究棟に越す前(1999年4月)に撮影したチームの写真。前列左から3番目が西道チームリーダー。
 高校時代にはすでに、漠然とはしていたが生命にかかわる研究の道に進みたいと考えていた西道隆臣チームリーダー。他の人とは少し違うことをしたいと高校2年から1年間、アメリカに留学した。飛び級して卒業したあと帰国。筑波大学に入り、大学4年間は生物物理学を専攻した。  「大学時代が一番勉強した時期だと思いますね。場所が筑波ということや寮生活だったため、生活費が東京の半分もかからないんです。それで余ったお金はすべて本へつぎ込みました。分野を問わず、おそらく2000冊くらい読んだのではないでしょうか。当時、筑波大学はまだ新しかったこともあって、教官もやる気のある人が多く親密になれましたし、学生も朝まで議論したりと、とにかく好きなだけ勉強ができたので、それが今でも宝です」  東大大学院薬学系研究科での博士課程修了後に入所した(財)東京都臨床医学総合研究所(臨床研)で蛋白質分解酵素の研究をしていたが、その過程でだんだんと人間の老化や病気に興味をもったという。
 「それ自体がサイエンスのテーマとして面白いと思いましたし、その研究が世の中の役に立つという魅力もありました」  ある研究で論文を出すと、兵庫医大脳外科の横田正幸先生から共同研究の誘いを受け、それが脳の病気に関する研究のきっかけになった。また、現在、埼玉 医大教授の丸山 敬先生が臨床研に同僚として来て、ともにアルツハイマーの研究を始めることになる。すると、さらにそれが縁でアルツハイマーの世界的権威である東大医学部の井原康夫先生と仕事をすることになるのである。
 「脳の老化に対する漠然とした興味はありました。以前は老化は自然現象だと思っていたのですが、それなりのメカニズムがあることがわかり、非常に興味が沸いてきたのです。その一方で、さまざまな偶然の出会いを経て夢中にやってきているうちに、いまに至っているような気もしますね」
 そして97年、BSIの設立とともに西道チームリーダーは臨床研から理研に移ってくる。
 「構想していたプロジェクトではラジオアイソトープ施設やかなりの設備が必要でした。なおかつ脳に関わってくるとなると、日本はおろか世界でも理研だけしか出来ない仕事だったと思います」と話す。
 「BSIに来てから最初のプロジェクトを立ち上げるときが、最も難しい時期でした。ある特殊な試薬の開発を外注したのですが、半年経ってできないことがわかったのです。それで、それからさらに半年かけて今度は自分たちで合成を試み、開発に成功しましたが、その間スタッフと毎日のように議論していました」
 一方で運に恵まれたこともあり、「ある遺伝子を改変したマウスが必要になり、普通 だったら1、2年かけて自作するのですが、まったく違う研究をしていた人がそのマウスを作っていることを論文で知って共同研究をすることになり、おかげで非常に時間が短縮されました」  5年ごとに研究チームの延長をするか審査されるBSIでは、半年かけてダメなのは大変なことだったが、「その後論文も雑誌に掲載され、運の悪いこともあれば良いこともある、悪いところは自分たちの努力で克服しないと前に進まないと感じましたね」
 現在、チームのメンバーは16名。チームリーダーとして心がけているのは良い人間関係、高い活性、絶対的安全だという。
 「やはりそれが基本だと思います。BSIではチームリーダー室を設けることができるのですが、このチームではそうせずに、スタッフとコミュニケーションがとりやすい大部屋にしています。スタッフにとってはやりずらいかも知れませんが」と笑うが、研究成果 ではプラスになるはず、と話す。部屋の中では西道チームリーダーの近くの席を固定せず、新しいプロジェクトを始めるスタッフは出来るだけ近くに座ってもらい、軌道に乗ったら、遠くの席で自分のペースでやってもらうという。
 「上司の隣は緊張しますが、誰かと話しているのが何となく聞こえてくるのが勉強になったりするんですね。私の場合、何となく話し方が似てきたりとかもしましたが」と自身の体験を交えて笑う。
 「今後、BSIに限らず人材の流動性が高まるはずです。そうなったときに、スタッフとの迅速なコミュニケーションが取れる体制作りが重要になると思います」
 BSIに来て権限が増えた分、責任も大きくなった。BSIがいろいろな面で注目されている現在、予想以上にプレッシャーがあるという。そんな状況のなかでも「使った研究費を100倍にも1000倍にもして返せるような仕事がしたい」と語って話を結んだ。
 



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