理化学研究所脳科学総合研究センター(理研BSI) 理研BSIニュース No.14(2001年11月号



てんかん患者におけるナトリウムチャネル機能異常の発見

 神経遺伝研究チーム
 記憶学習機構研究チーム
 神経遺伝研究チームと記憶学習機構研究チームは福岡大学医学部と共同で、てんかん患者においてナトリウムチャネルαサブユニット2型の遺伝子に突然変異を見いだし、更にこの変異を持つチャネル蛋白が機能異常を示すことを明らかにしました。
 てんかんの多くには遺伝的背景があり、原因となる遺伝子は千にもなると予想されますが、遺伝形式の複雑さなどからこれまでに同定された遺伝子は約25個にすぎません。てんかんには、痙攣発作、欠神発作などのてんかん発作のみを症状とする特発性てんかんと、運動障害、痴呆などを伴うより重症の症候性てんかんがありますが、研究グループは、神経細胞の活動をコントロールするナトリウムイオンチャンネルの遺伝子に注目し、特発性てんかんを有する19家系を調査・解析することにより、αサブユニット2型で188番目のアミノ酸がアルギニンからトリプトファンへ変化する突然変異(R188W)を見いだしました(図1)。R188はαサブユニットメンバーの間で高度に保存され、またこの変異は患者だけに認められました。更に、この変異を有するチャネル蛋白が心疾患、筋疾患でみられるナトリウムチャネルの異常に類似の電気生理学的異常を示すことを確認しました(図2)。これらの結果 により、ナトリウムチャンネルαサブユニット2型の異常が、特定の型のてんかんにつながりうることが世界で初めて示されました。
 これらの研究成果は、今後のてんかんの診断・治療法の開発・改良に大きく寄与するものです。

 
図1 てんかん患者において見いだされたナトリウムチャンネルの突然変異(イメージ図)。ナトリウム
チャンネルαサブユニット2型の遺伝子に生じたc.562C>Tにより188番目のアルギニンがトリプトファンに変化している(チャネル下部:赤)。


図2 疾患変異R188Wを導入したナトリウムチャネルは不活化が遅れ、流れ込むナトリウムイオンの量 が増える。これが神経細胞の過剰な興奮につながり、最終的にてんかんの発症につながると考えられる。

Sugawara T, Tsurubuchi Y, Agarwala KL, Ito M, Fukuma G, Mazaki-Miyazaki E, Nagafuji H, Noda M, Imoto K, Wada K, Mitsudome A, Kaneko S, Montal M, Nagata K, Hirose S, Yamakawa K (2001) A missense mutation of the Na+ channel aII subunit gene Nav1.2 in a patient with febrile and afebrile seizures causes channel dysfunction. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98: 6384-6389.



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