理化学研究所脳科学総合研究センター(理研BSI) 理研BSIニュース No.15(2002年3月号)



培養で神経幹細胞の分裂の瞬間をとらえた

 細胞培養技術開発チーム
 
図2
 脳の中にひしめくニューロン(神経細胞)。その電気活動が脳の機能を担っています。大脳、小脳など、複雑な情報処理をする場所では、ニューロンが整然と積み上げられ、まるで高いビルのような「層」を作っています。ニューロンが不足したり、でたらめに配置されてしまうと、脳はうまく働けません。脳の構造の形成原理を理解することが、ヒトの疾患の病理解明のためにも、また、再生医療への歩みの一つとしても重要です。
 脳の組織構築の問題は、従来、固定された標本を用いて研究されてきましたが、それには解像度に関する制約がありました。まず、ライブでない/時々刻々性に欠ける、さらに、細胞の個々別々性に欠ける、の2点です。ビル建築の様子を1ヶ月おきに遠くから眺めれば、確かにビルが高くなっているのはわかっても、どのようにして個々の資材の組み立てが進むのか、具体的にはわかりません(図1)。
 細胞培養技術開発チームでは、脳の「建築」、すなわちニューロンの誕生から層形成までを細胞を生かしたまま連続的に観察する、しかも、細胞を集団としてではなく個別にとらえる目的で、特殊な組織培養の方法を開発しました。大脳の原基をスライスにし、その中の細胞がまばらに標識されるように赤色蛍光色素(DiI)で処理しました(図1)。すると、ニューロンを生み出す前駆細胞(神経幹細胞)が個別に浮かびあがり、それぞれの分裂の様子をとらえることができました(図2)。
 この手法により、神経幹細胞が非常に長い突起を持ったまま分裂すること、そしてその突起が「子」であるニューロンにそのまま相続されることを、世界で初めてつきとめました。ニューロンは相続した突起を、自身の移動・配置のための「ロープ」として利用します。脳は基本素子であるニューロンを作るにあたって、その積み上げを効率良くするための工夫をも盛り込んで細胞分裂を進行させているわけです。同チームでは、生きた細胞のひとつひとつを見つめる「培養」で、脳形成のさらなる秘密に迫ります。
Takaki Miyata, Ayano Kawaguchi, Hideyuki Okano, Masaharu Ogawa
Asymmetric inheritance of radial glial fibers by cortical neurons.
Neuron 31, 727-741, 2001 (September).


 
図1



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