理化学研究所脳科学総合研究センター(理研BSI) 理研BSIニュース No.16(2002年5月号)



発声行動機構研究チーム発足
 ニューロン機能研究グループに、発声行動機構研究チームが1月1日に発足しました。
 カリフォルニア大学(サンフランシスコ校)から、Neal Hessler博士がチームリーダーに迎え入れられました。
 この新しいチームは、成鳥ではなく、ひなのみに歌の学習能力をもたらす、神経系、シナプスの特性、分子メカニズムの特徴の割り出しを目的としています。その他の一般的な課題は、大脳基底核の機能、行動と脳に対する社会的影響、感覚運動学習の神経機構です。
発生・分化研究グループ、病因遺伝子研究グループ、
脳型デバイス・ブレインウェイ研究グループ
研究レビュー委員会の開催

発生・分化研究グループ研究レビュー
 去る2月から3月にかけて、発生・分化研究グループ、病因遺伝子研究グループ、脳型デバイス・ブレインウェイ研究グループの研究レビュー委員会が開催されました。
 BSIのレビューは、研究グループ発足5年目に所属各チームのこれまでの研究の成果や進捗状況、研究手法、チームおよびグループ全体の方向性について国内外の当該分野の専門家が評価するもので、その結果は当該チーム、所属グループの次期研究計画策定等に反映されます。
 以下は、各グループに示された評価(概要)です。

発生・分化研究グループ
・御子柴克彦グループディレクター
・所属3チーム
・期 間:2月5〜7日
・委員会:Prof. Lynn Landmesser(米ケースウェスタンリザーブ大学)を委員長とする8人の委員

評価(概要)
・ 発生・分化研究グループは、分子的、遺伝的な脳形成のメカニズムを解明することにより、最新の神経科学の非常に重要な本質的な研究に取り組んでいる。各チームは、いろいろなモデル生物を利用しながら、大変重要なテーマに取り組み、グループ全体に首尾一貫した焦点を持っている。次期5年間も、おおよそ現状の資金レベルで、発生・分化研究グループが継続されることを強く支持する。

・ 本グループは神経科学の重要な分野に取り組んでおり、その存在は極めてBSIを強化している。発生神経生物チームは、国際的にも認められた傑出したチームであり、グループ全体の研究推進に大きな貢献をしてきた。発生遺伝子制御チームは優れた進歩を遂げ、今後の成果の見通しも大変よい。これらのチームの次期5年間を推奨する。分子神経形成チームは、もっとも新しく立ち上げられたため、研究は準備段階にある。研究の進捗状況は妥当であり、2、3年内に研究アプローチの成功が明らかになると予期されることから、その時点で再び評価されることを勧める。

・ その他、上級研究員のポストを継続的に設置することを強く支持する。これは、若い研究者に独立した研究機会を与えるとともに、総じて日本の神経科学研究の強化に結びつく。
 また、日本における一元的なゼブラフィッシュ施設の設立を強く推奨する。多くの変異が将来的に同定されることは明らかであり、これらの変異系列は日本の科学界そして世界のゼブラフィッシュの研究者にとって非常に重要な資源となる。
 研究チームは、大学院生の教育にもっと十分に関わるべきである。学生は、チームに活力を与え、チーム間の交流を大変効果的に促進するのみならず、若い研究員が教育、管理する能力を身に付ける機会を与えてくれる存在である。
 さらに、神経再生チームの新しいチームリーダーを広く募ることを勧める。


病因遺伝子研究グループ研究レビュー
病因遺伝子研究グループ
・貫名信行グループディレクター
・所属4チーム
・期 間:3月13〜15日
・委員会:Prof. William C. Mobley(スタンフォード大学)を委員長とする10人の委員

評価(概要)
・病因遺伝子研究グループ(MNG)の使命は、神経変性疾患の病理学的機序を理解し、神経の病気にかかりやすい個人を守る治療法を確立することである。レビュー委員会はMNGの仕事を非常に成功した重要なものだと評価しており、MNGの研究、そしてCAGリピート病研究チーム、神経遺伝研究チーム、運動系神経変性研究チームの研究は継続されるべきと強く信じる。仮説に基づいた研究に焦点を絞り、MNGの各チーム間の活動をより統合し、日本及び海外の研究者との戦略的共同研究を創出することにより、MNGが神経変性の病因と治療の研究において、先導的な役割を果たして行くことを期待する。

・CAGリピート病研究チームは、MNGの研究に数多くの重要な貢献をしており、次期5年間の継続を勧める。また、ポリグルタミン病やその他の病気の発症機構の解明に焦点をあて、関連テーマを研究している内外のラボと交流を深めること等を勧める。神経遺伝研究チームは、てんかんの遺伝子解析及びメカニズム解析で重要な貢献をしており、次期5年間の継続を勧める。また、より焦点を絞った研究を実施することにより、国際的に高い業績を達成できるものと考える。運動系神経変性研究チームは、神経変性疾病のメカニズムの解明に多大な貢献をしている優秀なチームであり、次期5年間の継続を勧める。神経変性シグナル研究チームについては、プロジェクトを指導するチームリーダーが辞任した現在、進行中の実験が終了した段階で解散し、MNGの研究をいっそう充実させ、補完するような神経変性疾患メカニズムに関する新しい研究チームを設けることを勧める。
その他の提言として、仮説に基づき、また焦点をしぼった研究テーマを打ち立てることを推奨するとともに、さらにMNGの各チームが日本及び世界の第一線の研究者と積極的に共同研究を進めることを推奨する。


脳型デバイス・ブレインウェイ研究グループ研究レビュー

脳型デバイス・ブレインウェイ研究グループ
・松本 元グループディレクター
・所属2チーム
・期 間:3月18〜20日
・委員会:Prof. Rodney Douglas(スイス連邦研究所チューリヒ大学)を委員長とする6人の委員

評価(概要)
・脳型デバイス・ブレインウェイ研究グループの使命は、“脳の設計原理を解明することと、そこから得られる知見を脳型コンピュータの設計と開発に適用すること”、である。本グループは、脳が「出力依存型作動」、「記憶主体型構造」という2つの中心的な設計原理をもつことを提案している。脳創成表現研究チームは、これらの設計原理を確認するための動物実験に焦点を置いている。数多くのこれらの実験はシステム神経科学に対して興味深い貢献ではあるが、脳型コンピュータの一般公式化、脳型コンピュータの原理をもたらす各実験のコンピュータモデリング、という2つの新しい試みに研究の重点を大きく移すことを推奨する。また、本チームの実験は、脳創成デバイス研究チームまたはその他のチームで開発されるデバイスのための脳型サブシステムの設計に対しても貢献する必要がある。

・脳創成デバイス研究チームには、2つの大きな焦点がある。1つ目は、神経活性を測定する光計測とその他の技術に関するものである。この仕事は非常に優れており、理研BSIの神経科学研究、さらには世界の神経科学界にとっても重要なものである。しかしながら、脳型デバイスを開発することに対しては直接的貢献はなされていない。このため、この研究テーマが、脳型デバイス・ブレインウェイ研究グループの科学上の目標とは離れて、独立した地位をもつことを強く推奨する。2番目の焦点は、学習とロボット工学である。本チームは2つの将来有望なロボットコントローラーを開発したが、これらは標準的な視覚前処理と順応性のある人工神経回路に基づいている。本チームにおけるロボット工学分野の研究が、動作、知覚、記憶、認知に関する脳の役割の明確な分析に基づいて、脳型デバイスの開発に貢献するよう、脳創成表現研究チームが明確な戦略を構築することを勧める。

・新しく強調されたこれらの方向に転換がなされているかどうかを確認するために、脳型デバイス・ブレインウェイ研究グループ(画像研究は除く)における進展状況を、2004年に評価することを勧める。
世界脳週間の開催

世界脳週間
 3月の中旬から下旬にかけて、脳科学の意義と社会的な重要性を知ってもらうための世界的キャンペーンである「世界脳週間」の催しが全国各地で開催されました。BSIでは、3月9日に和光市との共催による和光市民大学講座での田中啓治、Takao K. Hensch・両グループディレクターによる講演、16日にはBSIを会場に埼玉県の高校の先生方を対象とした、吉原良浩、加藤忠史・両チームリーダーによる講演及び、施設の見学を行いました。両催しとも、活発な質疑応答が行われるなど一般の方々に、脳科学を理解していただく上で大変貴重な場となりました。
理研一般公開開催

理研一般公開
 理研和光本所では、去る4月20日、科学技術週間行事の一環として毎年恒例である一般公開を開催しました。今年のテーマは、「新しい科学はじまる―これからの夢を考えよう―」です。
 BSIでも、各研究チームによる様々な体験コーナーやパネルの展示を行い、脳の作られるプロセス、アルツハイマー病などの脳の疾患、鳥の鳴く仕組み、感情の起こるメカニズム、蛍光に輝くゼブラフィッシュなどの20を越えるコーナーは皆盛況で見学者と研究者との触れあいが一日中絶えませんでした。家族連れの姿も目立ち、好天にも恵まれた結果、昨年を上回る5000人を越える来訪者を迎え、一般の方々に科学の研究現場をじかに感じてもらう貴重な機会となりました。



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