理化学研究所脳科学総合研究センター(理研BSI) 理研BSIニュース No.18(2002年11月号)



物体のイメージは我々の脳でどのように表現されているのだろうか?

 脳統合機能研究チーム
  私たちの脳は複雑なモノの形をどのように知覚しているのでしょうか。脳統合機能研究チームでは、マカクザルを用いてその仕組みの解明に取り組んでいます。
 マカクザルは私たちと同様な視覚システムをもっているので、視覚研究ではヒトのモデルとしてよく用いられています。マカクザルの側頭葉視覚連合野には、やや複雑な図形特徴に対して特異的に応答をする神経細胞の集団、「図形特徴コラム」が存在します。脳統合機能研究チームでは、光計測法(optical imaging:光を使って神経活動を捉える技術)を用いることによって、これらのコラムを脳表面上に散在するスポットとして観察することを可能にしました。複雑な物体像を見せると脳表面にたくさんのスポット(活動しているコラム)が現れますが、物体像を分解して単純化した図形を見せると一部のスポットが消失します(図1)。個々のスポットの神経細胞の性質を調べると、それぞれのスポットが物体像に含まれる特定の図形特徴に関係することがわかりました(図2)。これらのことから脳は複雑な物体を部分特徴に分解し、それぞれの部分特徴に関係する図形特徴カラムの組み合わせとして物体像を表現していることが明らかになりました。
 興味深いことに、物体像の図形特徴はスポットが活動することによって表現されるばかりだけでなく、スポットが活動しないことによって暗黙に表現される場合があります。たとえば、図2の消火器は、丸みを帯びたホースが脇についているために全体に丸みをもった図形特徴を持っています。側頭葉視覚連合野では、この丸みを帯びた特徴があることを、あるスポットが活動しないことによって表現しています(図2、青いスポット)。このように、物体像の脳内表現は、単純に活動するカラムを組み合わせるというより、活動するカラムと活動しないカラムの組み合わせという予想より複雑な表現になっていることが明らかになりました。
Tsunoda K, Yamane Y, Nishizaki M, Tanifuji M:Complex objects are represented in macaque inferotemporal cortex by the combination of feature columns. Nature Neuroscience 4, 832-838, 2001
 
図1:右列の図形をみせることによって脳表面上に現れたスポットの配列。赤、青、黄のスポットは、それぞれネコの全体像、頭部、シルエットによって出現したスポットを表す。図形を単純化するに従って、出現するスポットが消失していく。

 
図2:(図2)測定領域内には、右上の消火器に関連した4つのスポットが存在する。このうち赤いスポットは消火器の部分的な図形特徴に対して活動した。それぞれのスポットが表現する図形特徴を示したのが左図。一方、青いスポットは長方形には応答するが、丸みを帯びた楕円形には反応しない性質を持っている。右上の消火器に対してこのスポットは活動しないが、そのことによって物体像(消火器)が全体に丸みを帯びていることが表現されている。このように、物体像は活動するカラムと活動しないカラムの両方の組み合わせとして表現されていると考えられる。



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