理研BSIニュース No.25(2004年8月号)

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インタビュー

近藤 隆

発生発達研究グループ
近藤研究ユニット
ユニットリーダー
近藤 隆


遺伝子発現の機構解明を目指して

生物が機能形態の形成をする上で、遺伝子の制御は重要な役割を担っている。近藤隆ユニットリーダー率いる研究ユニットでは、染色体における遺伝子発現の機構についての解明を目的に研究を行っている。


近藤ユニットリーダーは大学院修士修了後、いったん化学会社に就職し、洗剤用の酵素やアミノ酸のひとつトリプトファンの遺伝子工学的研究をしていたが、2年後、再び大学院に戻ることになる。


「学生のころから高等生物の発生の研究をしたいと思っていました。例えば、人間が人間に見えるということは、遺伝的に厳密に決定されていることです。種特異的な形の形成と、いろいろな種類に共通の形の形成というのがあって、どうしてそのように形が形成されていくのかということに非常に興味があり、その研究が今に至っています。」


ちょうどそのころ、ショウジョウバエで前後の形の特異性を決めているホメオティック遺伝子*が同定された。しかし、哺乳動物についてはまだわかっておらず、それなら哺乳動物でホメオボックス**の研究をしようとしたわけだ。


「じつは会社を辞めて研究に戻ったきっかけのひとつは、九州大学の教授だった榊佳之先生(現・理研ゲノム科学総合研究センター長)の研究室に1カ月ほどお世話になったことです。ある時、榊先生に呼ばれて『君は研究に戻る気はないのか』と言われて。榊先生に言っていただいたのは大きかったですね。」


自由な研究環境の中で

大学院での研究生活は、一風、変わっていて、研究室の中でその研究をしているのは、近藤ユニットリーダー一人だけだったという。


「ホメオボックスを研究している助手の方がいたのですが、すぐに転出することになってしまいました。その時に、村松正實教授(現・埼玉医科大学ゲノム医学研究センター所長)は穏やかであまり物事にこだわらない方でしたので、何か新しい研究テーマを考えろと言われました。そのころ研究室でやっていたのは、核内レセプターというステロイドの代謝系、転写因子の研究だったのですが、まだショウジョウバエでは変態の際に大きな働きをすると考えられていたにも拘らず、捉えていなかったんですね。そこで、ショウジョウバエのレセプターをやりませんかと教授に伝えたら面白いねと言われたのですが、3日後になって「いや、虫はまずいよ。ここは医学部だから背骨がないとね」と言われて(笑)。それで結局、僕だけ一人、ホメオボックスの研究を続けることになりました。」


何とも自由な雰囲気のなかで研究ができるためか、この研究室からは数多くの有名な研究者が生まれているそうだ。


94年にポスドクとして入ったジュネーブ大学でも似たような環境で、「研究室の全員が4階にいて、一方で3階に小さな僕の研究室があって好き勝手やらせていただいていました」という。


“柔軟な研究”を心がけて

そのジュネーブ時代、インターネットでBSIの募集をたまたま見つけて応募したのが縁で、6年ぶりに帰国することになった。


「じつはその前に、アメリカの研究所に行くことがほぼ固まっていました。ただ、僕はじっくりと煮詰めていくタイプなので、アメリカの短期間にバンバン論文を出すという研究の体系が性に合わないなという感じがありました。ヨーロッパはそこが全然違っていて何年かに一度でも、大きい、有意義な仕事をしているなという感じがしました。そういう点で大学院時代の教授とジュネーブの教授が素晴らしかったのは、こういう仕事をしたいと言ったときに、時間はかかってもいいから仕上げて見ろという態度をとってくれたことでした。」


しかし日本に戻ってから感じるのは、日本の研究システム、特にグラントシステム(研究助成制度)がアメリカにだんだんと似てきて、“応用重視”という点ではすでにアメリカを追い越してしまっている様に感じられることだと言う。


「自分が非常に基礎研究指向であるということもありますが、結局、基礎の新しい発見がなければ応用も生まれません。現在、企業の研究と大学でのベンチャー研究が重なりすぎて、基礎研究については核になるところがなくなりつつあるような気がして、日本はかなり危ない状態にあるのではないかと感じています。理研の場合はまだ自分で予算を守っているというところがあるので、それによってかなり救われているという気はしますが。」


自由な環境と偶然の出来事の中で研究生活を送ってきたからか、「基本的な信念があれば、あとは形はどういうふうにでもなるので柔軟にそれに対応していく、ということを意識しています」と研究生活のスタンスを話す。研究ユニットの運営でも、スタッフには近藤ユニットリーダーが出すテーマを1つはやってもらう一方で、彼らが思いついた研究のアイデアをとにかく話してもらい、柔軟にユニットの研究に取り込んでいくことを試みている。



* ホメオティック遺伝子:体のある一部の組織や器官が別の組織や器官になるという変化を起す遺伝子。
** ホメオボックス:ホメオティック遺伝子に共通に含まれている、 180塩基対からなるDNA配列


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