理研BSIニュース No.35(2007年3月号)

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BSIでの研究成果

新しい蛍光タンパク質Keima(ケイマ)

細胞機能探索技術開発チーム


図1:Keimaの由来と性質


図2-a:mKeimaとCFPを用いた一波長励起FCCSでのCaspase-3によるペプチド分解の検出


図2-b:FCCSによるCaMとCaMKIのカルシウム依存的な相互作用の検出


図3:一つのレーザー(458nm)を用いたマルチカラーイメージング

私たちの研究室は、いろいろな性質を示す蛍光タンパク質を開発しています。沖縄の海で採取した珊瑚から、最大励起波長440nm、最大蛍光波長620nmというスペクトルを持つ蛍光タンパク質を作製しました。大きなストークスシフトを示すことが特徴で、将棋の駒「桂馬」の跳躍を連想させます。そこで、Keima(ケイマ)と名づけました(図1)。


蛍光でラベルされた分子が、fLオーダーの微小観察領域を出入りする際に検出される蛍光シグナルの時間的変化をゆらぎとして観測するのがFCS(蛍光相関分光法)です。これを発展させたものが FCCS(蛍光相互相関分光法)です。異なる二色のゆらぎ間の相互相関を解析することで、二分子間の相互作用を検出することができます。FCCS技術では二つの蛍光色素を全く同時に励起することが必要ですが、従来の技術では二つのレーザーを用いて同時励起し、それぞれのシグナルを同時取得する方法が採られていました。この方法では、(1)二つのレーザーの焦点を同一の微小領域に合わせこむことが難しい、(2)二つの蛍光シグナル間でクロストークが起こる、(3)FRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)が起こる、という問題があります。ストークスシフトの大きいKeimaを、ストークスシフトの小さいCFPと組み合わせることで上記の問題は解消されます。

Keima-CFPペアを用いたFCCS技術のアプリケーションを二つ紹介します。

  1. Caspase-3によるペプチド分解の検出:酵素による分解が進行する様子を経時的に観察しました(図2-a)。
  2. CaMとCaMKIのカルシウム依存的な相互作用の検出: CaMKIが比較的大きなタンパク質であるにも関わらず、相互作用の有無を再現性よく検出することができました。検出効率はKeimaやCFPの連結方法に影響されませんでした(図2-b)。分子間相互作用を検出するうえで、分子のサイズや連結方法に影響されないことは重要です。

Keimaの使用によって一つのレーザーを用いる簡便なFCCS技術が開発されました。FCCS機器の低価格化およびFCCS技術の普及が期待されます。創薬におけるリード化合物探索の効率の向上につながるものと期待されます。


複数の現象を同時に観ることで、複雑に絡み合う現象を紐解くように解析することが重要になってきています。Keimaと他の蛍光分子を細胞内小器官に設置し、458nmのアルゴンレーザーで励起することで同時6色のマルチカラーイメージングを行うことができました(図3)。


Takako Kogure, Satoshi Karasawa, Toshio Araki, Kenta Saito, Masataka Kinjo and Atsushi Miyawaki: Nature Biotechnology 24, 577-581 (2006).


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