天皇皇后両陛下のご訪問
2006年10月3日、天皇皇后両陛下は理化学研究所を訪問されました。野依良治理事長の先導のもと、仁科加速器研究センターとBSIを3時間余りにわたって視察されました。 BSIでは脳科学東研究棟をご案内しました。まず、甘利俊一センター長と伊藤正男特別顧問がBSIの全体像についてポスターを使ってご説明しました。次に fMRI室において、田中啓治領域ディレクターがfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を使った脳機能計測の仕組みを、西道隆臣チームリーダーが認知症の治療法と予防法の開発に向けた研究をご説明しました。 3階においては、Kathleen S. Rocklandチームリーダーが大脳皮質の構造に関する研究をご説明し、両陛下には顕微鏡を使って神経細胞の様子をご覧いただきました。また、宮脇敦史グループディレクターが紫外線を当てて蛍光蛋白質の色が変わる様子をリアルタイムでお見せするとともに、岡本仁グループディレクターがこれを用いたゼブラフィッシュの神経の発生・発達に関する研究についてご説明しました。最後に、野依理事長は「今日はご覧いただけませんでしたが、BSIでは躁うつ病など心の問題も、脳との関係で研究を始めています」と申し添えました。
両陛下は納得されるまで何度も質問されるなど、予定の時間を超えて熱心に視察されました。両陛下にご説明した研究員らは「両陛下から極めて専門的なご質問を頂きました」と感想を語りました。
伊藤正男特別顧問がピータ・グルーバー神経科学賞を受賞
BSIの伊藤正男特別顧問は、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のRobert Nicoll教授とともに、記憶のメカニズムを明らかにする試みに対する功績として、ピータ・グルーバー神経科学賞を受賞しました。かつてJohn Eccles教授の下で学んだ両者による、記憶の形成過程における分子メカニズムの研究が、神経科学の分野の確立に貢献したと評価され、その栄誉が与えられました。
2006年10月15日にアトランタで開催中の第38回北米神経科学学会で行われた受賞講演において伊藤特別顧問は、小脳の神経回路において長期抑圧(LTD)によってシナプスの強さが調節される仕組みと、運動記憶の学習においてLTDが果たす役割について述べ、さらに同じ原理が思考にも適用できる可能性を指摘し、締めくくりに「フロイト派の“無意識の概念”をLTDで説き明かす」という夢を語りました。
神経科学賞は、ピータ・グルーバー財団によって、科学、人権、司法における先駆的な活動に対して毎年授与される五つの国際的な賞の一つです。2004年には、Seymour Benzer博士が、2005年には、Eric Knudsen博士と小西正一博士が神経科学賞を共同受賞しています。
BSIの組織統合について
2006年10月1日より、BSIの組織が一部統合されました。従来の高次脳機能発達研究グループと学習機能研究グループは統合されて、象徴概念発達研究チーム、生物言語研究チーム、言語発達研究チームからなる知的脳機能研究グループ(入來篤史グループディレクター)として発足しました。
また、リサーチリソースセンターは細分化されて、新たに動物実験支援ユニット、生体物質分析支援ユニット(以上、板倉智敏ユニットリーダー)、機能的磁気共鳴画像測定支援ユニット(程康ユニットリーダー)の3ユニットが新設されました。BSIの研究支援体制の一層の充実が期待されます。