理研BSIニュース No.28(2005年5月号)

言語切替:日本語 » English

Brain Network


三井 健一

アメリカ西海岸の研究支援施設を見学して

リサーチリソースセンター
専門職研究員 三井 健一


今回、このコラムの執筆依頼を受けましたので、昨年の秋に、業務のひとつとして行いました、海外の支援業務施設の見学を目的とした旅行について、簡単に述べさせて頂こうと思います。私個人としては今まで、海外出張というと、主に学会への参加が目的で出かけることが多く、今回のように複数の場所を見学して巡る旅行は初めての経験でした。今回はサンディエゴで開催された、第34回アメリカ神経科学会への参加も兼ねて計画させて頂けることになったので、西海岸の研究施設をいくつか選ぶこととし、以前、この地域の実験動物施設の見学旅行をされた板倉智敏先生(リサーチリソースセンター(RRC)グループディレクター)から頂いた参考資料や、インターネットで検索した情報をもとに、最終的に、サンフランシスコ、サンタバーバラ、ロスアンジェルス、サンディエゴにある研究施設10カ所の見学の機会を得ることができました。同行していただいたのは、財団法人脳科学・ライフテクノロジー研究所の常務と部長のお二方です。


10日間の日程で、週末や学会参加を含めると、見学は1日2施設のペースでこなさなければなりません。早朝暗いうちに最寄りの空港からプロペラ機で出発、2カ所を回るのに都合3回もそんなプロペラ機に乗って移動するといった日もあり、かなりハードスケジュールでした。同僚が、「国際ビジネスマンみたいでかっこいいじゃん」と言うのですが、慣れたことをするわけではないので、とてもそんな気分にはなれませんでした。


さて、見学した施設の様子はどんなであったかというと、支援業務の態勢としては、私たちのRRCのような、機器を一カ所に集めたセンター的なものは無かったのですが、今回訪問した中で、スタンフォード研究所(SRI)、カルテック、ソーク研究所といったかなりコンパクトなキャンパスの研究施設の場合は、各支援業務を担当している研究室がほぼ同じ建物か隣の建物にあり、利便性は私たちとあまり変わりない様子でした。一方、スタンフォード大学やカリフォルニア州立大学の各校のようにキャンパス全体の広さが2キロ四方もあろうかという大学では、一学部の占めるエリアだけでもかなりの広さがあり、それを考えるだけでも、一カ所に全体に共通の施設を設置するのは利用者の利便性からいってナンセンスになります。部門毎にプロジェクト上必要とされる支援関連の部屋が、いわばそのプロジェクト密着型で点在している感じでした。


所有している市販機器に関してはさすがに目新しいものは無かったのですが、同じ装置を何台も設置してある場合、たとえばDNAシーケンサーを7台装備して業務しているところ、あるいはLC-Q(質量分析装置)を12台設置している施設などで、機能性と排熱等を考えた独自のレイアウトが施されている点などは、各種機器で手狭になってきた私たちの施設のアレンジにも参考になりそうでした。また、装置でおもしろかったのは、世界にひとつしかないという手作りの装置。市販の装置では1,000万円もの価格でも4試料しか一度に処理できないところ、手作りで一度に24試料を処理できるものを作ってしまった、という例や、一見がらくたのようでありながら、新式の装置が手に入るつい最近まで活躍していたという手作りの分注ロボットなどは、関係者の意気込みの産物と思われます。


どこの施設でも、各支援業務においてたいへん熟練したテクニッシャンか、専門の研究者がリーダーとして統括しており、RRCでも業務ごとのそういう人材の必要性を少し考えさせられました。


さて、せっかく訪問したのだから、支援施設のことばかり気にしていないで、キャンパス全体を見渡したとき、まず、感じたのは、どこの施設もたいへん風光明媚なところにあり、それが唯一旅行気分になれて気晴らしになった点です。カリフォルニア州立大学サンタバーバラ校のキャンパスなど、冬も近いのに日焼けした学生が半袖半ズボンで往来している様子が見られ、まるで南国のリゾートパークでのんびり過ごしているような錯覚に陥ってしまいました。また、特筆したいのは建築家Louis Kahnのデザインで建設されたというソーク研究所のキャンパス。個性的なデザインの建物は、一見研究施設とは思えず、まるで近代美術館とでもいえるようなたたずまいでしたし、そんな建物を両側にふたつ配置した広いデッキの手前に立つと、遠近法のマジックで、まるでキャンパスが海の向こうに延びていくような光景が見られ、とても印象的でした。


といった、初めての施設見学旅行でしたが、見てきた成果を何らかの形でRRCの業務の進展に役立てていきたいと思います。


ソーク研究所のキャンパス

ソーク研究所のキャンパス


発行元

  • 理化学研究所
    脳科学総合研究センター
    脳科学研究推進部
  • 〒351-0198
    埼玉県和光市広沢2番1号
    TEL:048-462-1111(代表)
    FAX:048-462-4914
    Email: bsi@riken.jp
  • 掲載の記事・写真及び画像等の無断転載を禁じます。
    すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。