理研BSIニュース No.33(2006年9月号)

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特集

Earl K. Miller

トップダウンの注意制御とボトムアップの注意制御

理研-MIT脳科学研究センター
注意制御神経機構研究チーム
Principal Investigator
Earl K. Miller(アール・ミラー)


認識は脳内部の状態と外からの刺激の2つの要因によって形成され、その例として視覚的注意があります。注意を向ける対象を意図的に変えることは、前部前頭葉から低次の領野への「トップダウン」信号の結果であり、顕著な刺激によって自動的に引き起こされる注意は、視覚野から高次の領野への「ボトムアップ」信号の結果であると考えられています。 しかし、これに関する直接の証拠はほとんど存在しません。その理由のひとつは、脳の各領域の間で信号がどのように流れているかの識見を与えてくれるような、脳内領域間神経活動の精密なタイミングに関するデータが存在しないためです。


図1:調査対象の三領域を示した、アカゲサルの脳の側面視。 点線は神経信号のボトムアップの流れを示し、実線は神経信号のトップダウンの流れを示す。


図2:トップダウンとボトムアップの注意課題。赤丸はサルの視線位置を示し、矢印は眼球の動きを示す。


図3:視覚ポップアウトと視覚探索の反応時間の差

そこで私たちは、注意の移動において重要な役割を果たすと知られている2つの領域である、前部前頭葉(LPFC:外側前頭前皮質と、FEF:前頭眼野)と頭頂皮質(LIP:外側頭頂間溝野、図1)に多数の電極を取り付けたサルに、ボトムアップとトップダウン両方の注意に関連した課題を行わせるという実験を行いました。トップダウンの注意とボトムアップの注意は、視覚による探索課題とポップアウトによる課題で対比させました(図2)。これらの課題は両方とも、サルに複数の刺激の中からターゲットの刺激を発見することを要求しており、ターゲット以外の刺激の特性が2つの課題間で異なっていました。ポップアウト条件の課題では、ターゲット以外の刺激はすべて同一であり、ターゲットとの差異は1つの属性(色またはバーの向き)だけであったため、ターゲットが飛び出して見えます(ポップアウト)。 そのため、注意は自動的にターゲットの刺激に向けられるようになっていました。視覚探索の課題では、ターゲット以外の個々の刺激は同一ではなく、色またはバーの向きのどちらかがターゲットとは異なっていました。ターゲット以外の刺激は、1つの属性はターゲットと一致していたため、サルはターゲットを能動的に探索しなければならず、トップダウン制御が必要でした。実験に使用したサルでは、ポップアウト探索でターゲット以外の刺激の数が増大すると反応時間もやや増大しました。神経活動の計測実験では、1個のターゲットと3個のターゲット以外の刺激を使用しましたが、視覚探索の課題の反応時間はポップアウト条件課題よりも平均して長く、変動幅もより広いものでした(図3)。 これらは、自動ポップアウト探索と能動的探索それぞれの特徴でした。


各領域のニューロンがいつターゲットを発見したかを判定するため、各ニューロンの活動を有している各領野についての情報量を、実験の試行ごとに時間の関数として計算しました。 今のところ、各領域でランダムに選択したニューロンの約1/3は、ポップアウト課題、視覚探索課題のどちらでもターゲットの位置に対する選択性を示しています。


今までのデータは、ポップアウト条件下での課題のタイミングが、領域によって明瞭な差を生じることを示しています。 LIPが最初に、続いてLPFC、その後FEFがターゲットを発見しました(それぞれ眼球の動きの180ms前、120ms前、50ms前)。 探索条件課題では、結果はまったく異なっています。 ニューロンがターゲットを探し始めるのは眼球の動きの直前(約50ms前)で、順序は前頭部が最初(LPFCとFEFが眼球の動きの約55ms前)でその後LIP、と逆になります。実際に、ボトムアップの注意では、LIPのニューロンが眼球の動きよりもはるか前にターゲットを発見し、トップダウンでは眼球の動きの後でなければLIP のニューロンがターゲットの位置を集団として有意に反映し始めることはありません。これらのデータは、総合すると二通りの動作モードがあることを示唆しています。ポップアウトではボトムアップの迅速なターゲット選択がまず最初にLIPで起こり、探索においてはトップダウンでより長い潜伏期のターゲット選択が最初に前頭部で反映されます。私たちの知る限りにおいて、このことは、これらの領域が異なった注意モードに対して異なった貢献をしているということを示した最初の直接的な証拠です。


異なった(解剖学的)領域の間の同期した活動は、領域間のコミュニケーションを援助するための各部位の動的な結合を促進していることを示唆しており、また、皮質領域内での注意においてある役割を演じていることが知られています。 視覚的な注意のトップダウンとボトムアップの制御における同時性の役割を探求するため、私たちはLIPと前頭部のそれぞれの電極で計測した活動間の相関の度合いを測定しました。 選択した電極の組み合わせにかかわらず、任意に選んだ電極間でLFP(局所場電位)には同期した活動が測定されました。


両方の注意課題で、周波数中域と高域において、LIPと前頭部の同期性の増大が見られました。 ただし、同期性の増大の様子は、注意課題がトップダウンかボトムアップかによって異なっていました。 中周波数域(22-34Hzに純化)での同期性の増大はポップアウト課題に比べて探索活動の方が増加しました。 対照的にポップアウト課題では、LIPと前頭部との間の同期性は高周波数域(35-55Hz)において探索課題よりも有意に増大していました。


上記の結果はこれまでのところ、ポップアウト課題では後頭部(例えばLIP)内部の競争がターゲットの位置判定の問題を自動的に解決しており、視覚探索は前頭部で発生する注意を向けるバイアス信号に依拠しているということを示唆しています(図1)。 LIPで発見された選択性パターンは、目立ちやすさが最大のターゲットを自動的に選択することのできる「目立ちやすさに関するマップ」を保有している領域と部分的に一致していましたが、それほど目立っていないターゲットを発見することはできませんでした。動物は2種類の行動の間を移行するので、頭頂部と前頭部の関係も現在の課題を反映して移行しなければなりません。同期性は各領域間の結合の強さを簡単に調節することのできるメカニズムです。トップダウン条件とボトムアップ条件の間の同時性周波数帯域に差が存在することは、脳は情報の流れを調節するためにさまざまなレベルで同期性を利用している、ということを示唆しています。



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