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伊藤 正男チーム メンバー紹介

研究者のプロフィール

リーダー:伊藤 正男

1928年、愛知県生まれ。医学博士。東京大学医学部卒業。東京大学教授、理研脳科学総合研究センター所長を経て、現在同センター特別顧問。小脳研究の世界的権威。日本学士院賞・恩賜賞、日本国際賞、文化勲章、レジョン・ドヌール勲章(フランス)等多数受賞。著書に、『ニューロンの生理学』岩波書店(昭和45年)、『脳の設計図』中央公論社(昭和55年)、『脳のメカニズム』岩波書店(昭和61年)、『脳の不思議』岩波書店(平成10年)等。

何かを見たり聞いたりしたとき、理由は分からないがその意味が突然ぱっと理解されたり、問題を考えていて疲れてぼんやりした時などに正しい答が突然浮かんできたりすることがよくありますね。これを直感といい、意識の下で何か起こっていることを思わせます。日常生活で頻繁に経験されることですが、どうしてそんなことがおこるのか、その脳の仕組についてはまだよく分かっておらず、これからの脳科学が解明すると期待される重要課題の一つです。実は、私たちのチームでは、直感には小脳が関係すると考えてきました。小脳は運動において非常に重要な働きをしていますが、私たちは、運動だけでなくさらに思考においても働いていると考えており、「直感には小脳が行う予測が重要」という仮説を立ててきました。
運動では最初、意識的に手足を動かしてうまくいったかどうかを確認しながら練習します。しかし練習を重ねるうちに、だんだん意識しなくてもうまく運動できるようになります。このとき、手足の動きをそっくり示す模型のようなものが小脳のなかにできてきて(それを私たちは"内部モデル"と呼んでいます)、手足の運動を一々チェックしなくても、内部モデルの動きをチェックしていれば、上手な運動が出来ると考えます。小脳で起きることは意識にのぼりません。スポーツの練習をして上達しても自分では何が変ったか、やってみないと分からないのはそういう仕組のためと思われます。思考では手足の代わり大脳皮質に表象されているイメージや概念を動かします。動かすものはひどく違いますが、動かし方には強い類似性があります。思考を繰り返すと、思考の対象の内部モデルが小脳に出来てきて、あとは無意識で思考を進めることが出来るようになると想定されます。
直感思考が本当にどのような仕組によって起こるのかを調べることができたらすばらしいですね。将棋は、一見脳科学とかけ離れたゲームに見えますが、直感思考の仕組を脳科学の観点から研究するのに最適のものです。プロ棋士の皆さんは、子供のころから将棋の訓練を続けてきて、「将棋」に特化した思考回路を持っています。私たちのチームは、そのような卓越した能力を持つプロ棋士の協力を得て、将棋における直感のメカニズムを小脳との関連で解明することを目指しております。

 
メンバー:藤井 盛光

詰将棋課題を用いてプロ棋士とアマチュアの小脳活動を調べています。小脳の内部モデルは運動の前向き制御に用いられ、正確な運動を可能にします。これは何度も繰り返して行った運動の指令を小脳がコピーすることにより達成され、半ば無意識的に運動の調節が行われていることが確かめられています。 この小脳の内部モデルが思考にも使われていれば、素早い思考、すなわち直感を 発揮する際の無意識的で素早いという特徴を説明出来ます。
また将棋においても何度も繰り返し行なった思考の指令が小脳にコピーされ、その結果小脳の活動がプロ棋士とアマチュアで異なっていることが考えられます。まずは将棋で小脳活動の関与を示すことができれば、人間一般の直感的思考における小脳の役割を説明することが出来るかもしれません。

 
 
独立行政法人 理化学研究所 脳科学総合研究センター 将棋思考プロセス研究プロジェクト(将棋プロジェクト)