理研BSIニュース No.22(2003年11月号)

言語切替:日本語 » English

Brain Network

Andrzej Cichocki

ブレインコンピュータインターフェイス:難問に挑戦する

脳信号処理研究チーム
チームリーダー Andrzej Cichocki(アンジェイ チホッキ)


BCI を体験するためEEGセットアップ準備
BCI を体験するためEEGセットアップ準備

現在、人間がコンピュータとやりとりするための方法はわずらわしく非効率的である。旧来の入力方法は、主にキーボードとマウスを通じてコンピュータに情報やデータを伝える。いまだに、人々はコンピュータ側の制約に適応しなければならず、これは全く直観的な方法ではない。そこで、脳電位信号や何か他の電気生理学的な信号を利用することによって、外界と通信し、遠隔装置やコンピュータを制御する新しい方法が得られるのではないかと考えられている。


ブレインコンピュータインターフェイス(BCI)、またはブレインマシンインターフェイス(BMI)は、脳(神経)からの信号を取得、解析して、脳とコンピュータの間に、リアルタイムの広帯域通信路を実現するシステムである。BCIの研究は、神経科学、工学およびリハビリテーションを含む学際的な試みであり、いくつかの新技術、すなわち、Intelligent Simulators(IS),Information Autonomous Agents (IAA),バーチャルリアリティ(VR), 機械学習(ML)の交差する位置にある。現在BCIは、科学技術、特にマルチメディアコミュニケーションの新たな開拓分野であると考えられている。


脳活動パターンの変化から、ほぼリアルタイムでBCIに必要な情報を生成するのに利用できる手法として、刺激や反応の想起とバイオフィードバックの2つがある。刺激や反応を想起させる手法では、人が与えられた合図に応じて何かを想起するときに発生する様々な領野の脳活動をとらえる。一方、バイオフィードバックでは、人がリラックスしたり、ある姿勢をとったり、リズミカルな動きを想起するなど、身体的な側面を制御することによって、コンピュータや遠隔装置で解釈される信号を生成することが必要である。


脳機能に関する理解が高まり、新たな信号処理手法が開発されたことに促され、私達の研究室では、BCIの電気生理学的な原理を研究し、前述の2つの手法を組み合わせようとしている。脳電位信号が正しくパターン分類、認識される前に、脳電位信号に対する十分な理解および適切な前処理が必要である。例えば、ブラインド信号処理(BSS)手法や時間周波数表現を用いて、波形を解析し手がかりとなる特徴を突き止めることで、いろいろなモダリティの脳活動を抽出することが可能である。


私達の研究室で行なっている実験では、多チャンネルの脳電位計測システムで高時間分解能で脳の電気的な活動を計測する。このようにして、心的なタスクによって引き起こされた脳活動の部位を特定しようとしている。特に、BCIにおいて、人が、特定のタスクやイメージに集中し想起することでコンピュータ上のプログラムを動かそうとするときの、視覚野、聴覚野、および運動野における活動に興味がある。想起する刺激としては、今までに、形、音、複雑な現実世界の映像、一文字の発音、数字、海岸の風景や手足の動きなど様々なものを用いてきた。また、人の脳の中で最も発達し最も鋭敏な感覚系の一つである大脳皮質内の運動視のシステムにおいて、想起による脳活動を利用した独自のBCI手法を研究している。


BSSのような情報処理手法は、多次元の複雑な生物システムを解析する手段として有用であると考えられる。もちろん、思考などは私達の目的のためには複雑過ぎ、扱うことはできない。私達は、想起などの様々な心的タスクや、聴覚、視覚および触覚刺激に関係する脳活動のパターンを特定することに焦点をおいている。


多次元の情報を分類するための信号識別装置を開発するとともに、EEG信号の空間分解能が低くSN比も十分でないことを考えて、身体とコンピュータ間のインターフェイスを含めたより広い枠組も考えている。脳以外の身体からのバイオフィードバックも統合した、より総合的な人間-コンピュータインターフェイス機器を用いることにより、人間の指令は、前処理された脳電位信号のみでなく、自由な会話、視線や頭部の動き、ジェスチャーなどを通してもコンピュータに伝えることができる。このような複数のモダリティを用いたシステムは、身体障害に対してより柔軟に適応できるであろう。


BCI、より一般的には、人間-コンピュータインターフェイスは、どのような点で、興味深く重要な研究テーマなのだろうか。次のような、新しい科学、コンピュータの応用への貢献の可能性がある。


  • 人間の心身の状態のモニターの開発: 仕事に関係する心身の状態の客観的な評価(刺激への反応、覚醒度、疲労度、注意)、睡眠障害、神経症、感情など。
  • 生物工学的な機器の開発: 障害者、高齢者を支援する機器の開発。
  • 新しい研究の理論的な枠組みの提供: タスク、行動と計測された脳信号をリアルタイムで関連づけることで、異なる感覚系からの入力が脳の中でどのように統合されるのかを研究し、この知識を利用して、効率的かつ環境に適合した機器を開発する。
  • Information agent systemの改良: こちらの言ったことだけではなく、意図を理解して行動する、日常生活に熔けこんだコンピュータ(事務アシスタント、複数言語対応の旅行ガイド、警備員、テレビゲームの相手)
  • 人間-コンピュータインターフェイスの可能性の拡大: 高度な人間-コンピュータインターフェイスは、脳、身体およびコンピュータの相互作用を向上させることにより、より自然で、柔軟性、効率性、および安全性に優れたユーザに優しいものになりうる。

ブレインコンピュータインターフェイス、人間-コンピュータインターフェイスの開発にはさらに年月がかかると思われるが、マルチメディアコミュニケーションの劇的な変化や私達の実世界での体験の向上に寄与する可能性がある。




発行元

  • 理化学研究所
    脳科学総合研究センター
    脳科学研究推進部
  • 〒351-0198
    埼玉県和光市広沢2番1号
    TEL:048-462-1111(代表)
    FAX:048-462-4914
    Email: bsi@riken.jp
  • 掲載の記事・写真及び画像等の無断転載を禁じます。
    すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。