理研BSIニュース No.24(2004年5月号)

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インタビュー

研究室のメンバー

神経回路メカニズム研究グループ
小幡研究ユニット
ユニットリーダー 小幡 邦彦


ある大学院生との出会い

昨年、岡崎国立共同研究機構(現自然科学研究機構)生理学研究所からBSIに研究活動の場を移すことになった小幡ユニットリーダー、その研究者生活は 40年以上にも及びます。「家が医者だったものですから、大学はあまり考えもせずに医学部に行きました。ところが当時は抗生物質での治療くらいしかなく、診断も患者さんが亡くなったあとに病理解剖してはじめて確定できるという状態でした。最新の研究成果や技術を使って診断や治療法を開発したり、医療現場に応用できる現在の状況とは雲泥の差。そのまま臨床医の道へ進むことにためらいを感じてしまったのです。」


同時に、ひとつの出会いもあった。


「生理学学生実習で私たちのグループを担当してくれたのはある大学院生でした。当時は一年上でも下の者を指導するのは当然という雰囲気でした。この方が実に熱心で、2ヶ月にわたる実習で、実験やデータ分析、発表方法を指導してくれるのです。みんなは他の科目の試験の準備で逃げてしまったので、私だけ捕まってしまって……。夜になると出前でチャーハンをとってくれるので、それを食べながら毎晩遅くまでがんばったものです。」


そういって笑う小幡ユニットリーダーですが、このときに研究者としての喜びを知ったといいます。「与えられたものだけではなく、疑問に感じたものから自分で研究テーマを見つけて取り組み、解明していく。これほどエキサイティングなことはありません。この情熱を後に続く者に身をもって伝えることができるのは若い研究者です。若い方に後進の教育の大切さをわかってほしいと思います。」


「悪い学生」とは?

「そう考えると、最近の若い人たちはかわいそうだなと思うこともあります。私が若かったころは、未解明の部分や、まだ誰も手をつけていない部分がまだまだたくさんありましたから、そのなかから自由に自分の研究テーマを選ぶことができました。


ところが最近では、研究者の数が増えて様々な研究が行われている上、技術の進歩によって研究のスピードもどんどん早くなっています。昔は職人芸で作った電極でネコの脳のなかの見えない細胞をつかまえて1年がかりで行った実験が、今ではラットやマウスの脳を生きたままとり出して、顕微鏡で細胞を見ながらできるようになったので、1週間で済んでしまう。このような状況では、競争が激しくて、自分が興味を感じる分野にじっくり取り組むというわけには、なかなかいきませんからね。」


しかし、たとえそうであったとしても、自分が何を研究したいのかを常に意識し続けることは、非常に重要なことだと小幡ユニットリーダーは言います。「私が留学したハーバード大学のクフラー教授はひじょうに気さくで気配りをする方でしたが『自分の教室員のうち働いているのは半分位だ』とか『悪い学生ならいない方がマシだ』とおっしゃっていました。ここでいう"悪い学生"とは、知識や学力が不足していることでなく、研究に対する自主性や意欲を持っていない学生という意味だと思います。


実際、この研究室には多くの大学院生、研究者が集まっていましたが、よくいえば放任主義、逆にいえば誰も面倒を見てくれない状態でしたから、その中で成果をあげようとしたら、よほどしっかりと自分の考えを持たなければなりませんでした。でもそれが、後に全米や母国で活躍したリーダーを生み出す力になったのだと思っています。」


研究者も「流動性」をもつべき

小幡ユニットリーダーは、研究者も自分自身の所属について、もっと流動的に選択してもいいのではないかと言います。


「地方の大学や研究機関から声がかかっても、なかなか行きたがらない人が多いようです。東京や大阪などの都市部にいたいということなのかもしれませんが、自分がやりたい研究ができるなら臆せずにどんどん行くべきだと考えています。現在、都市部と地方との格差はほとんどなくなっています。大学法人化などの影響もあって大学間の競争が激しくなっている今、地方の大学も優秀な研究者を求めています。この機会を存分に活かすべきではないでしょうか。


それに、研究者にとって環境を変えることはとてもいい刺激になるはずです。学生の頃、実験装置を使わせてもらったり、試料の精製のためにいろいろな研究室に行きあれこれ話をしていると、それまでとらわれていた自分の視野の狭さに気づき、行き詰まりかけていた考えに思わぬ展開がひらめくといったこともよくありました。若い研究者の皆さん、チャンスを活かして自分の殻から飛出し、より広い世界にどんどんチャレンジしてください。私は今、大学院時代のテーマに再び取り組んでいるという状態ですが、途中で、当時としては最新の技術で先端的テーマについて研究論文を出したことがいくつかあります。しかしそのような場合、自分でそれを発展させることができず、学会からも忘れ去られてしまいました。そこで次のことで締めくくりたいと思います。最新の研究設備を使って最先端の、悪く言えば流行の研究を行って成果をあげれば、大きい満足が得られ評価もされやすいでしょう。論文もはっきり解答を出したもの(したがって設問も小さくなる)が採択されやすくなっています。一方、自分で考え抜いた独創的なテーマで、現在は解答が部分的だったり、課題を提示しただけかもしれませんが、発展性のある寿命の長い研究に取り組む研究者を支援する体制も必要です。」




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