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将棋と脳研究の関係

将棋の棋士の思考

プロの棋士は常に思考を重ね、経験で得た情報をもとに、直観的に瞬時に次の一手を繰り出すことができます。このような将棋棋士の対局中の直観的な状況判断や、指し手の決定過程などにかかわる脳の神経回路の情報処理メカニズムを解明し、人間に特有の直観思考の仕組みを解明することは、脳の思考の仕組みの謎を解く重要な鍵につながるかもしれません。

脳研究とプロの棋士

直観思考に対して脳研究からアプローチするためには、直観思考をしている時の脳活動を詳細に測定する必要がありますが、この測定の難しさが研究の大きな壁になっていました。
この壁は、

  • あるテーマに関して知識を持っている相当数の被験者とこれに対する対照群を集めなくてはならないこと。
  • 被験者に思考をさせ、持続させていかなければならないこと。
  • 測定データにあわせて被験者が何を考えていたかを説明し、それを第三者が検証できる必要があること。

などです。
これに対して、プロ棋士は、直観思考を含め優れた思考能力を持つ集団であり、前述の課題に対応することができると考えられます。

  • 幼い頃から将棋を勉強している人達が、プロ棋士と認められた集団として存在すること。
    なお、日本には、いろいろなレベルの大勢のアマチュアがいますので、対照群となる被験者も得られやすい。
  • 頭の中で将棋盤をイメージして、現実の駒を扱わずに対局を行う事ができること。
  • 対局、詰め将棋など、一つのことを考え続けることができること。
  • 手を読むという活動を測定後に被験者が説明し、他の棋士がその内容を検証できること。

そして、日本将棋連盟よりプロ棋士を被験者として派遣いただけるなどの協力をいただけることとなり、理化学研究所と富士通及び富士通研究所により、将棋における局面の状況判断や指し手の決定過程等にかかわる脳の神経回路の情報処理メカニズムを解明し、人間に特有の直感思考の仕組みを解明することを目的とした共同研究プロジェクト「将棋における脳内活動の探索研究」が開始されたものです。

研究及びこれまでに得られた成果

研究は、次の三つのテーマについてなされています。

テーマ1:将棋を指すことに伴う思考過程のfMRIによる研究
課題を考えているプロ棋士の脳をfMRIで測定し、脳内の活動する場所を調べるなど。
テーマ2:将棋思考過程における脳活動の脳波による解析
課題を考えているプロ棋士の脳波を測定し、脳が活動する時間との連係を調べるなど。
テーマ3:将棋課題解決時の思考制御における小脳内部モデルの関与
将棋における思考過程について心理実験やfMRIによる測定を行い、大脳と小脳の連携による学習の過程を調べるなど。

具体的には、駒配置の認識や記憶、詰め将棋や必至課題の解決などにおける脳活動について、脳波測定やfMRIによる脳活動の測定を行い、プロ棋士(集団)とアマチュア(集団)の比較をすることにより、プロ棋士の直観思考を脳科学から解明しようとしています。
これまでの研究では、プロ棋士の脳の瞬時の活動として盤面の駒組を読む時、および一手を選択する時の脳活動を測定することで、アマチュアとは異なる脳の思考回路の存在が示されています。また、プロ棋士とアマチュアで小脳の活動領域の大きさに違いがありそうであることもわかってきました。
つまり、直観思考を解明する道筋が見えてきたと言えるでしょう。

直観研究の応用

将棋における直観思考の解明は、文化の中で育てられた脳の働きの解明、人間に固有の知性解明への突破口となり、また、高技能技術者からの技能の継承のあり方に関する知見を提供などの教育や複雑化する情報システムの安定運用にそのメカニズムを応用などの情報技術に広く展開されることが期待されます。また、人工知能やこれまでのコンピューターと異なる人間型コンピューターにつながっていくかもわかりません。

今までに掲載された雑誌等

本プロジェクトは、これまで以下の雑誌に掲載されました。

  • 『日経ビジネスAssocie』 2008年9月号
  • 『Forbes日本版』 2008年10月号
  • 『Newton』 2009年2月号
  • 『文部科学時報』 2009年9月号
 
独立行政法人 理化学研究所 脳科学総合研究センター 将棋思考プロセス研究プロジェクト(将棋プロジェクト)