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将棋プロジェクトに寄せて

富士通株式会社 執行役員常務 川妻庸男

 私どもの富士通という会社について、皆さまは、携帯電話とかパソコンなどを作っている会社というイメージをお持ちだと思いますが、基本的にはコンピューターを製作しております。私が生まれた年は1954年です。実は、その年に富士通FACOM100という日本初のコンピューターが完成しました。それから約50年間、コンピューターが進歩して、その進歩と共に富士通も成長して参りました。私はそのうち約30年を富士通と歩みをともにしてきました。

 コンピューターは、50年前の当初から、1+1=2といったように、教えたことしか処理する能力がありませんでした。確かに、現代では、すごく小さくなったり速くなったりして、ここ50年間で大きな進歩を遂げました。しかし、コンピューターのそのような基本的な処理能力は、実は何も変わっていません。つまり、教えていないことはできないのです。例えば、足し算1+1=2だと教え込んで、1って言うのは何だ、2っていうのは何だと意味付けをして、全部教え込んでいきます。その結果、非常に進化して、皆さんがご存知のGoogleなどの検索エンジンが動いたり、ファイナルファンタジーのような美しいグラフィックで中に人間が動いたり喋ったりするコンピューターゲームが動いたりするわけですが、結局、原理原則は50年前と何も変わっていないなと私はずっと思っていました。

 富士通及び富士通研究所がなぜ理化学研究所や日本将棋連盟とこのようなプロジェクトを始めたのかということの理由のひとつがそれです。今世界中にコンピューターが広がっており、皆様の生活そのものもコンピューターに支えられてきております。駅の改札を通る時も、携帯電話をする時も、飛行機に乗る時も、コンビニで買い物をする時も、みんなコンピューターが支えています。しかし、例えば、そんな中で発生するトラブルを考えると、過去に起きた、原因がわかっているトラブルはすぐに直せますが、原因がわかっていないトラブルは直せません。人間が必死で考えて答えを出すしか今のところないのです。小さな範囲の影響度ならばそれでもいいかもしれませんが、世界中に影響するようなコンピュータートラブルの場合だとそれでは済まされません。そのようなリスクを常に抱えて、そのリスクを解消しようとして人間が日夜必死に考えてやっと動いているのが今の世の中のコンピューターなのです。

 コンピューターが初めてのトラブルや経験を処理できないと申しましたが、人間の場合、日常的にまったく初めての現象に対して、結構上手く適応して対処しています。ここが人間とコンピューターの一番の違いです。つまり、これからのコンピューターは、今までのコンピューターがますます高性能になっていくのに加えて、もうひとつ新しい人間的な感覚を持ったコンピューターが必要になるのではないかと私は思っています。例えば、ひとの話し相手になったり、良いことを教えてくれたり、一緒に考えてくれたり、語り合えたりといった人間らしいコンピューターです。

 富士通は、ずっと昔から「夢を形に」という標語を掲げてきましたが、それが富士通のDNAそのものを表す言葉です。夢を何とかして形にしようと努力することがずっと昔から合言葉のように社内で言われています。そのような夢の実現のひとつとして、今あるコンピューターの大きな弱点を改善して、新しいコンピューターを開発していくということをぜひ行って参りたいと思っております。その意味で、富士通及び富士通研究所は、この理化学研究所の将棋プロジェクトに大きな期待を持っています。

 最後に、私が、このプロジェクトに強い関心を持っている大きな理由がもうひとつあります。実は私は将棋が大好きなのですが、過去日本将棋連盟のプロ棋士の皆さんのお話を聞くと、どうも普通の人とは違うなという感想を持っていました。それで、プロ棋士の脳の中がどうなっているのかについて、とても興味をもっていました。今回、理化学研究所がプロ棋士の脳を科学的に解析することに成功して、プロ棋士の脳の働きについて、たいへん興味深い発見がありました。このような研究成果から、従来の私の直観が正しかったと自信を深めております。プロ棋士はなぜ直観を身につけることができるのか?これはこれからの人間の社会生活にコンピューターが浸透していく中で、富士通にとっても非常に重要なテーマだと考えています。

 
独立行政法人 理化学研究所 脳科学総合研究センター 将棋思考プロセス研究プロジェクト(将棋プロジェクト)