研究者として大切なこと
研究者にとって大事なことは、「人の話によく耳を傾け、自分の眼で観察し、自分の頭で考え、自分の言葉で表現する」、というのが私の考えです。ただこれは、研究者だけでなく、社会人一般に通用することだと思います。
それにはまず「自分の頭を鍛える」、つまり、「ものごとを正確に論理的に解釈し、論点を正確にだれにでもわかるように表現する」、ことを習得してください。高校生ならば、国語や英語のような科目と数学、大学生ならば、卒論作成などのような様々なテーマによる小グループでのデスカッションやレポート作成が、このような脳のトレーニングに適していると思います。
研究に大切なこと
研究にとって一番大事なのは、何を研究するかというテーマ選びです。研究の対象は、脳科学以外にもたくさんあります。個人にはそれぞれ適性があり、どういう研究に向いているかは、人それぞれです。もし、君が研究者を志すならば、はやりすたりなどは気にしないで、時間を十分にかけてテーマを選んでください。その人がどういう研究に向いているは、本人にしかわからないからです。私自身も、大学に入学してから脳の研究者になることを開始するまで、8年くらいかかりました。
幅広い分野での研究が求められる脳科学
脳の研究は複合科学ですので、様々なアプローチがあります。脳の研究目標として、1990年代後半から4つのスローガン、脳を「知る」、「守る」、「創る」と「育む」ということが提言されています。「知る」は、生物や医学、薬学などの見地から脳の発生や脳活動のメカニズムを調べることであり、「守る」は医学や薬学の方法を用いて、脳の病気の予防や治療の方法を開発することです。現在、世間で注目されているiPS細胞の研究も、「守る」に応用されるでしょう。「創る」は、情報・電気工学や物理学の理論や技法を用いて脳の動作原理を知り、それを使って、コンピュータやロボットを作成することを目指しています。また、「育む」は、脳の研究の成果を教育や人材育成に還元し、より豊かな社会を創生することをめざしています。これでわかるように、脳の研究には、現代の自然科学や社会・人文科学の幅広い研究分野の領域をこえた包括的な研究が必要とされます。もし君が、将来脳の研究に携わることを希望するならば、「知る」、「守る」、「創る」と「育む」のなかで、自分に一番向いていると思うもの、あるいは一番興味があるものを、まず選択してみてはどうでしょうか。