理化学研究所 脳科学総合研究センター(理研BSI)
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教えて!ドクターN

ドクターN プロフィール

テレビなどでラボノートについての報道がされてますが、ラボノートとはどんなものなのでしょうか?

現在の実験は、ほとんどデータはコンピュータのファイルになっていますので、ノートにデータファイル名と、そのデータがとれた実験の条件を書くことが大事です。
実験の結果は、実験が終わってからコンピュータの中のデータを整理してみないとわからないことが多いので、私自身は結果については、こういうことだろうという予測しか、ノートには書きませんでした。実験のあと、実験ノートを参照してデータ整理をおこない、そこではじめて結論がはっきりすることのほうがはるかに多いので。
ラボノートは、研究者自身が作ったものですが、大学や研究機関では、それは個人の所有物でなく公的なものとみなすところもあります。そういう場合は、研究施設が実験ノートを管理し、個人が勝手に持ち出すことを禁止しています。研究者は研究施設の了解を得て、そのコピーを手元においてデータ整理などに利用することになります。ただノートの管理には期限があり、5年というのが常識です。
論文の不正が話題になっています。論文に使ったデータが、結論を導くのに必要な実験条件を満たしているかが、非常に重要です。ですから、実験ノートに、データの背後にある実験条件をはっきりと書いておくことが大切です。人の記憶には誤りが避けられません。データを整理し論文ができるまで、ふつうは時間がかなりかかります。時間がたてばたつほど記憶は薄れますからね、ノートに書いてある情報は貴重です。

よく言われる「センス」ってどのようなものなのでしょうか。

脳科学から説明できますか?

学習や記憶に関する能力には個人差が大きいことが知られています。この個人差が、遺伝的要因によるものか、それともその個人の努力に起因するのか、昔から意見が分かれています。
また遺伝子操作により、脳や神経細胞に関係する分子の発現を強制的に減少・増加させたネズミ(マウス)では、運動や認知機能が低下したり、あるいは逆に増加がすることが知られています。
しかしながら、脳はたいへんよくできていて、生まれつきある特定の神経細胞の学習に関する機能が低下していても、練習をすることで、それを他の神経細胞がうまく学習してカバーすることがあることが知られています。
従って、センスと呼ばれる生まれつきの特性があっても、それよりも、実際に努力し学習することによって能力を獲得するほうが、より重要であると私は考えています。

高校2年生です。バスケットボール部に所属してます。

僕は試合等で緊張してしまい、いつものプレーができないのですが、その緊張は脳の問題なのでしょうか、心の問題なのでしょうか。

緊張すると「あがって」しまって、ふだんなら簡単にできることが、どきどきいてうまくできないということは、誰にもあることと思います。これを生物学的に考えると、ストレスが脳に加わり、脳だけでなく全身に影響が及ぶということになります。
視覚などの感覚系を通じて脳に伝えられた情報は、大脳辺縁系にある扁桃体やその周辺の大脳基底核に伝わり、それが私にとって都合のよい情報かそうでないかが判断されます。それがもし都合がよくないと判断されると、不安が生じ、今度はその信号が脳幹の青斑核や視床下部に伝えられます。
青斑核からはノルアドレナリン、視床下部からはオレキシンや脳下垂体のホルモンの分泌を促進するホルモンが分泌され、心拍が速くなるような交感神経を高めるような効果がおき、いわゆる「ドキドキ」という感覚が誘発されます。
緊張とはこのように脳の問題ですが、心も脳の活動によって生じるので、同時に心の問題であると、私たちは考えています。

高校2年生女子です。

脳科学は現実社会でどのように役立っていますか? また、高校生の私たちが身近に感じられるようなところで脳科学が役立っていることはありますか?

ご質問、ありがとうございます。 
たいへん良い質問です。脳科学は、比較的に新しい学問です。これまでは脳のでき方や働く仕組みを理解することが研究の中心でしたので、それを利用する試みは、今のところは、あまり行われていません。しかし、防犯カメラに撮影された多くの顔から、ある特徴をもった方を抽出したり、あるいはカメラで顔に自動的にピントをあわせるようなメカニズムなどにも、脳科学の成果が応用されています。
脳科学が今後ますます応用される可能性は非常に大きいと思います。ドライバーの表情から、その人がどれくらい眠そうかを判断し、居眠り運転を予防するなど、私たちの身近なところに脳科学が応用される日がまもなく来ると、私は期待しています。

脳科学と心理学の違いは何ですか。

高校3年生 M・Yより

お問い合わせありがとうございます。
心理学は古代ギリシア時代から続く学問で、ヒトを含む動物の行動と心の関係を、様々な観点から検討するものです。脳科学はこれに比べて、まったく新しい学問で、心の源が脳の働きであるという観点から、行動がおこるまで脳がどのように作用するかを生物学的に追求することを目標としています。その起源は、ドナルド・ヘブというカナダの有名な心理学者が、学習や記憶が脳神経回路のシナプスの変化に起因するという有名な仮説を発表した1950年ごろと考えられています。
彼の有名なThe Organization of Behaviorという著書は「行動の機構」という表題で岩波文庫に翻訳されていますので、興味があるようでしたら、読んでみてください。このように脳科学は心理学から分かれてきた学問で、行動の発現する脳のメカニズムを生物学や工学などの観点から解明することを目指すものです。

学習の記憶について教えてください。
高校1年生の男子です。先日、理化学研究所に見学に行った時に、ドクターNのお話を聞きました。 学習の記憶を長持ちさせるには適度な休憩が必要とのことでした。 休憩はどのくらいが適度なのでしょうか。

休憩をとらず集中的に学習した時と、休憩をはさんで分散的に学習した時とで、学習の結果できた記憶の持続時間を比べると、後者のほうがより長く持続することが知られています。この現象は分散効果と呼ばれており、すでに100年以上前から、陳述記憶(非手続き記憶)でも運動記憶(手続き記憶)でも、また動物種問わず広く見られることが指摘されています。分散効果がおこるのに必要な休憩時間は、学習の内容や個人間でバラツキがあるようで、どれくらいということを正確に言うのは難しいようです。小脳による運動学習を動物実験で再現した例では、30分から1時間の休憩が最適だということがごく最近の研究で示唆されていますが、果たしてこれが皆さんの日常の勉強にもあてはまるかどうかはわかりません。皆さん、実際に勉強してみて試してみてください!

こんにちは。16歳、高校2年生の女子です。
人間は脳のほんの一部の機能しか使っていないと聞きました。もし、もっと脳を上手に使うことができるのであれば、例えばどんなことが可能になるのでしょうか。いわゆる天才といわれる人たちは、私たちよりも脳を効率的に使っていたり、たくさんの機能を働かせていたりするのでしょうか。

脳の大きさは、石器時代から現代にいたるまで、ほとんど変わっていないにも関わらず、皆さまよくご存知のように、石器時代とは比べものにならない、よく発達した文化や文明が、現代作られています。脳をより上手に使うことにより、より多くの自然のなぞを解き、それを応用することでまたより多くのことが可能になると考えられています。たとえばアインシュタインのような1000年に数人しかでないと思われている大天才の脳が、いくつか残されて、これまでいろいろな面から研究されてきましたが、その大きさや形は、ふつうのヒトの脳とまったくかわらないようです。天才の脳が実際にどのように働いているかは、まだよくわかっていませんが、やはり努力して脳を鍛えることにより才能が発揮されるのでしょう。

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