理研BSIニュース No.26(2004年11月号)

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インタビュー

平林 義雄

神経回路メカニズム研究グループ
平林研究ユニット
ユニットリーダー
平林 義雄(ひらばやし よしお)


“ジャズ的”な研究室とは

平林義雄ユニットリーダーが理研に来たのは13年前。静岡県立大学で講師をしていた平林ユニットリーダーは、旧国際フロンティア研究システム(FRP)の永井克孝グループディレクター(当時)から理研に誘われ、その場で「行きます」と即答してしまったという。


FRPはそのころ、まだ珍しかった時限性の研究プロジェクト。パーマネントの職を辞しての転職に、周囲からは「お前は変わってると言われましたが、40歳を過ぎて独立したい意識が強くありました。そんな時に永井先生に声をかけられて」と平林ユニットリーダー。


独立した研究室を持つことは大きな機会であると同時に、その運営をいかに進めるかという悩みも生み出したが、平林ユニットリーダーはそのヒントを学生時代に熱中していたジャズに見出した。


「僕はジャズ的に研究室を運営したいと思っているんです。ジャズというのは、カルテットやトリオとか、何人かのインタープレイで一つの音楽を奏でるもので、即興性が重んじられます。研究室も同じで、ピアニストを3人集めてもダメなんですね、違う分野の得意な人が集まらないと。それにBSIの研究タームは 5年ですが、どんなジャズのグループでも、10年、20年続くことはありません。僕ら研究室のリーダーは、バンドマスターみたいなものです。そういう意味で研究室の営みというのは、楽器を使って勝負する世界と似ていると思うことがありますね。」


テンション・ノートが研究を進める

学生時代のバンドではピアノを担当。今でも静岡の自宅に戻ったときには、ピアノを弾いて過ごすことがあるという。


「ピアノの和音というのは、なかなか難しいですが自分で作ることもできます。それも理論通りのコード進行だと面白くないですよね。ジャズやボサノバでは変な音を入れたりして、よくこんなコードをつけられるなと驚くことがあります。『ド・ミ・ソ』というコードは安定はしているかもしれないけれど面白くはありません。そこへ変わった音を入れたりすると、不協和音になりかねませんが、面白い音が出ることもあるんです。」


研究室の運営も同じで、この「危ないバランス(テンション・ノート)」があると、バランスが取れている一方で、緊張もあるから変化し続け、前に進むこともできるというわけだ。


とは言っても、なかなか思い通りにならないのも、音楽と研究は同じだ。


「『音楽』と書いて音を楽しむなんてウソだと思うことも多いですね。いい音が出ずに『音を苦しむ』ばかりで。でも、ほんの一瞬、音が合ったときに気持ちいいんですよ。研究でも、いいデータが出て喜んでいるなんて一瞬ですよね(笑)。」


新しいサイエンス

BSIで研究をするなかで、平林ユニットリーダーは、これから新しいサイエンスが生まれる時代が始まるのではないかと思うことがあるという。


「これまでの科学の繁栄というのはアナログでやってきましたが、次の世代の科学者はデジタルの真っ直中で教育されてきていますよね。では、彼らは一体どういう形のサイエンスを作るのかなと思うんです。たぶん、僕たちは全然違う発想でやってくれるのではないでしょうか。僕らはアナログでものを作ったり、精製したりしてきましたが、これからのデジタルの世代は、どんな企画やセンスを見せてくれるのかなという、楽しみも不安もあります。例えば、複雑な生態系をコンピュータでシミュレーションするようなライフサイエンスというのはまさにデジタルですが、そういうサイエンスは将来的には、次に何が起こるのかをプレディクトできるわけですよ。すごい時代が来ますよね。」


BSIはいろいろな分野の人が集まった非常にユニークで総合的な研究所だ。平林ユニットリーダーは、ここから新しいサイエンスが育ってくる可能性を感じている。そのためには、科学研究の重点を一点に集中してはならないというのが平林ユニットリーダーの考えだ。


「とくに脳研究というのは、コンピュータ理論も、医学も、多様な基礎研究も必要だし、バイオロジーの非常に広い底辺の領域がしっかりしていないと花咲かないと思います。ですから、幅広く人材をそろえないと、いくら脳の研究センターを作っても次の世代が育たず、やがては枯渇してしまいます。どこからどんな研究が出てくるのかわかりませんから、あらゆるところに目を配り、そしてユニークな、世界でこの人しかやっていないというような研究にプライオリティーを置くことが大切だと思います。」


人材をそろえるためにも、成果を出し、それを社会に広く還元することは重要だ。次代の脳研究を切り開くために、「僕らの研究がどういう方向に行って何を生むのか、知的な財産として100年後にも残るのか、そういうレベルで社会に知らせていくことが必要だと思いますね。それが僕らの責任です。」



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