理化学研究所 脳科学総合研究センター(理研BSI)
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脳科学の人 研究者インタビュー

研究者の生活理科係のフィールドは現在世界に拡大中

ラボではパソコン作業が中心
ラボではパソコン作業が中心

普段はパソコンの前で作業をしています。例えば、カエルホタルが光る様子を撮影した動画を解析して、どのカエルホタルが頻繁に光っているかを調べたりしています。他には、自分で考えた数式が実際のカエルの合唱の法則をうまく再現しているかを、パソコンを使った数値シミュレーションなどで繰り返し検討したりします。「面白い結果が出た!」と思っても、実は単純な間違いであることが多いので、いろいろな人と議論しながら何度もチェックする作業が必要になります。

これらの作業以外に、毎年3カ月くらい、野外でカエルの調査を行っています。調査には僕以外にも、一緒にカエルホタルを開発した京都大学の学生さんたちが同行します。例えば、島根県・隠岐の島では、夜に田んぼで調査を行います。そのため、明るいうちに宿舎で夕食をとり、レンタカーで目的の田んぼに向かいます。田んぼに着いたら、日が暮れてカエルが活発に動き始める前に、数十台のカエルホタルを並べてしまいます。そして完全に日が暮れたら、ビデオカメラでカエルホタルを撮影します。撮影は1カ所につき1時間程度で、その後はまた別の田んぼで撮影を行ったり、メスガエルの行動を調べたりします。全ての実験が終わると日付が変わっているので、宿舎に戻って打ち上げをしてから就寝します。小学生のときに通っていた公園が田んぼに変わっただけで、20年経ってもやっていることはほとんど同じです。

また、最近は海外の研究者にも興味を持ってもらって、パナマやオーストラリアにもカエルの調査に出かけます。作業内容は日本とあまり変わらないのですが、調査場所が熱帯雨林になります。そのため、カエル以外にもアルマジロや大蛇、尻尾が木の葉のようなヤモリなど、図鑑でしか見たことのないような生き物に出会えます。また、海外での調査は現地の研究者と一緒に生活をしながら行います。そのため、英語でのコミュニケーションが必要になります。こちらの意図がうまく伝わらなかったり、時には衝突したりすることもありますが、面白いデータがとれたときには日本での調査と同じように皆で盛り上がります。このような野外でのカエルの調査が、僕にとって一番楽しい時間です。

研究者の休日のんびり、でもやっぱり研究

休日は家でのんびりしています。僕はテレビゲームが趣味なので、最近はモンスターハンター、またはドラゴンクエストなど昔のゲームをして遊んでいます。他に月1回程度、カエルホタルの開発を主導した後輩に電子回路の作り方を教えてもらっています。僕は電子回路の作成については素人なので、後輩にいろいろと教わりながら、将来は自分でも新しい装置を開発してみたいと思っています。毎回お菓子を用意して、合間にコーヒーを飲みながら、クラブ活動のような雰囲気でいろいろな電子回路を作っています。

アイディアが浮かぶ瞬間議論のあとの頭の整理

理研施設内の池でーザリガニいるかな?
理研施設内の池でーザリガニいるかな?

誰かと研究の話をしたあとが多いです。僕自身が物理を専攻しながらカエルの研究をしていたこともあり、いろいろな分野の方と議論や雑談をしながら研究を進めるよう心がけています。これまでロボット工学や生物学・化学・農学・数学・心理学など、さまざまな分野の研究者と議論させてもらいました。このような違う分野の研究者からは、考えたこともないようなコメントをもらうことがあり、とても勉強になります。時に厳しいコメントをもらうこともありますが、そんなときこそチャンスです。自分達だけでは気付かなかった問題点が明らかになるからです。そのような問題点を一つずつ改善していくことで、より良い研究にすることができます。議論したあとは1時間程度散歩して、自分の中で考えを整理するようにしています。このときに新しいアイディアが浮かぶことが多いです。

BSIの良いところ各国から集まった研究者

研究者の自主性を尊重してくれるところです。僕自身も、のびのびと楽しく研究させてもらっています。他には、国内だけでなく海外からも脳に関わるユニークな研究者が集まっているところが魅力です。例えば、動物の脳を用いた実験によって脳機能を調べる研究、それらの機能を数式を使って解析する研究、鳥の歌など動物行動の視点から脳を調べる研究などをしている人がいます。日本にもすごい人はたくさんいますが、世界にはもっとたくさんのすごい人がいます。僕自身は英語力やコミュニケーション能力に自信はありませんが、完璧でなくても案外大丈夫なものです。思い切って話しかけて議論すれば、新しい意見を聞くことができます。異なる国や異なる分野の研究者と話すと、自分の世界がどんどん広がっていくように感じます。

20年後の私まだまだ知らないカエルの世界へ

カエルの研究を続けていると思います。世界にはまだ見たことのないカエルがたくさんいます。カエルの野外でのいきいきとした姿を伝えられる研究者になっていたいです。そのために、カエルのコミュニケーションを数式を使って調べる理論研究と、野外でのカエルの行動を調べる実験研究の両方で、世界に誇れる面白い成果を出せるようがんばります。また、最近は同志社大学と共同で、コウモリが超音波を使って餌を追いかけるエコーロケーション行動の研究を始めました。そちらも、理論と実験の両面からコウモリの面白さに迫る、ユニークな研究に発展させていきたいと思います。流行に左右されず、自分の好きな動物の研究に没頭していると期待しています。

今一番知りたいのは疑問はつぎつぎ浮かぶ

僕たちが研究しているカエルの鳴き声は生物の分野では広告音と呼ばれ、「オス同士が縄張りを主張する役割」と「メスを呼び寄せる役割」の2つの役割があると考えられています。僕たちは、ニホンアマガエルは近くにいるオス同士が交互に鳴くという法則を見つけました。これは、タイミングをずらしてお互いの鳴き声を聞きやすくすることで、自分の縄張りを強く主張するためだと考えています。ただし、僕たちが調べたのはほんの一部で、まだまだわかっていないことがたくさんあります。例えば、たくさんオスが鳴いている中で、どのオスがメスにモテるのでしょうか? また鳴くことによって、メスだけでなくヘビなどの天敵にも自分の位置を知られてしまいます。たくさん鳴いている中で、天敵に狙われやすい個体はいるのでしょうか? 知りたいことは、考えだすときりがありません。現在、国内や海外の研究者と協力しながら、これらの課題に取り組んでいるところです。

高校生へのメッセージ

僕は、小さいころから生き物が好きでしたが、初めから生き物に関わる仕事をしようと思ったわけではありません。高校生のときは部活をやっても長続きせず、特に目標も持たず、ただ何となく生活していました。そんなときに物理が好きになって、大学で物理の勉強をしようと決めました。その後、生き物の面白さを再発見し、物理の研究室でカエルの研究を始めて、今は一生続けたいと思えるテーマになりました。
今なかなか目標が見つからない人は、まずは自分の興味のあるものを見つけてみてください。もし興味のあるものが見つからなければ、小学生や中学生のときに興味を持っていたものを振り返ったり、他の人の話を聞いたりしてもよいかもしれません。自分の興味と向き合ううちに、それが目標に変わるかもしれないし、あるいは新しい興味や目標が見つかるかもしれません。今目標を持っている人は、ぜひその目標を大切にして、がんばってください。その上で、違う国の人や違う目標を持つ人など、いろいろな人と話してみてください。きっと思いがけない刺激をもらえるはずです。
周りに流されず、自分の興味のあるものを追求して、人生を楽しんでください。

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