理化学研究所 脳科学総合研究センター(理研BSI)
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脳科学の人 研究者インタビュー

松股 美穂

Name 松股 美穂(まつまた みほ)
Position 研究員
Education 立命館大学理工学部
BSI Lab 発生遺伝子制御研究チーム
http://dgr.brain.riken.jp/

代表的研究社会的なヒエラルキーの形成過程についての研究

私はこれまで数回、研究分野を変えてきました。最初は発生といって、身体がどのように形作られていくかのメカニズムを研究していました。生体内でタンパク質が遺伝子のスイッチを次々にon/offしていき、それがドミノ倒しのように続いていくことで、たった一つの受精卵から最終的な身体が出来上がります。目や神経系は最初は表皮と同じなのですが、その一部が内側に落ち窪んで目や神経になります。私はその過程のごく一部に注目し、その研究で博士号を取得しました。

次に、脳の中で出生後でも神経細胞ができ続けるという現象の一部を、同じように分子レベルで解析しました。注目していたのはドコサヘキサエン酸、アラキドン酸といった食べ物に含まれる脂肪酸と、それを体内で受け止めるタンパク質です。最初は脂肪酸とその受け止め役のタンパク質が生後の脳で神経細胞を増やす仕組みを調べていたのですが、行動に与える影響についても研究しました。その仕事を進めるにつれ、人を含めた動物の行動により興味を持ち、行動と脳内の回路について深く研究しようと理研に異動してきました。

現在は、脳の中の手綱核(たづなかく)と脚間核(きゃっかんかく)という場所に注目し、社会的なヒエラルキーの形成過程についての研究を行っています。

可視化した大脳皮質の神経細胞
可視化した大脳皮質の神経細胞

動物には、一般的に人間界であるような、社長が部下より偉いといった階級のようなものはありません。しかし彼ら(私が対象としているのはマウスですが)にはもっと直接的に誰が一番偉い/強いという順位付けがあります。マウスたちは一番強いマウスの顔色をうかがい、時には自分より弱いと思われるものを小突いたりしながら(笑)生きているのです。このヒエラルキー形成には身体の大きさや力の強さなどの身体的ファクターが大きく関係しますが、それとは別のファクターとして「気が強い」とか「こらえ性がなくてつい手が出てしまう」とかいった、性格的なものも関係があるようです。

マウスの優劣関係を調べるテスト
マウスの優劣関係を調べるテスト。
透明な筒の左右から2匹のマウスを入れて、
どちらが相手のマウスを押し出すかで順位を調べる。写真では、右の黒いマウスが左の白いマウスを押し出そうとしているので、黒いマウスが優位

今、私が扱っているマウスはちょっと威勢が良いのですが(良く言えば勇敢、悪く言えばチンピラっぽいですね(笑))、こういった性格的な部分も、脳の中でここはON、ここはOFFとたくさんの回路が制御された結果、最終出力として現れると考えられています。彼ら(マウス)は相手の様子をうかがって、「自分がどのように振舞うのが生存にとって最適か?」という計算をしつつ生きているのです。

皆さんも、テストの点数が悪かったことが続いて自信を失ってミスしてしまったり、逆に部活動などで勝てないだろうと思っていた格上のチームに勝つとそのままの勢いで勝ち進んだりすることがあると思います。そういう時、実際の実力とは別に内面的な何かが影響しているような気がしますよね。そのような内面的な部分に、手綱核や脚間核の神経活動が関係しているようなのです。今はこの手綱核から脚間核への回路を操作することで、マウスが「気合い勝ち」や「負け犬根性の払拭」をできるようになるかどうかを見ています。将来的には、長期的な社会的劣位からくる鬱様症状に対する改善効果も見据えています。

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