理化学研究所 脳科学総合研究センター(理研BSI)
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脳科学の人 研究者インタビュー

研究者の生活じっくり考えて動くタイプ

撮影のために用意したセット
実は以前の職場(東北大学)で
映画に研究室の仲間1として出演しています。
写真は実際の実験室ではなく、その撮影のために
用意したセット。しかし右側のデスクは私の通常の
実験でのデスクを忠実に再現しており、試薬も
カレンダーもメモもファイルも当時実際に使っていたもの

これは人によって様々だと思いますが、私はある一定時間以上考えてやっと頭が働くタイプのようです。ですので、中断されてもあまり影響のない作業や実験、調べ物や論文を探したりはラボで、じっくり考えたり勉強したり論文を読んだりするのは深夜や早朝、家でやっていることが多いです。のめり込んでいる時期は他のこと、例えばゴミ捨てとか服装とか食事が全て煩わしくなったりすることもあります。しかし、周りを見ていると、朝来て仕事をして決まった時間で帰る、と常に同じ調子でムラなく仕事を進めておられる方もいます。研究のスタイルにもよるかもしれませんが、オフの時もアイドリングしているタイプと、オフがはっきりしている人とに分かれているかもしれません。

研究者の休日しっかり休みたい派

リフレッシュ!
リフレッシュ!

これも本当に人それぞれですが、私は体力があまりないこともあって余暇は出かけて楽しむよりもしっかり休みたい派です。疲れているときは16時間くらい寝ていることもあります。
趣味も若い頃は色々やっていましたが、のめり込みやすいので小説や映画やドラマはやめました。今は野球を見ることと音楽を聴くこと以外の趣味には触れないようにしています。ネコ科の球団とイヌ科のバンドが好きで、一年間に数回は球場やライブに行ったりしています。やはり家にいてテレビやCDで楽しむよりも直接体感することの方が、湧き上がる感情も強くリフレッシュ効果も高いような気がします。そうやって出かけている時だけは100%仕事のことを忘れているからでしょうか?(笑)

アイディアが浮かぶ瞬間考えに浸ることのできる環境に身を置く

前述しましたが、私の頭はある程度回転してからようやく動き出すようなので、頭の回転数をあげるためにまずはずっと考えに浸ることのできる環境に身を置くことが必須ですね。その中で思いつくことをノートにひたすら書いたり論文を読んだり教科書で調べたり、関係がありそうな知見であふれそうにしておきます。そこまでやったら、あとは考え続けながら他の作業で手を動かしたりします。お風呂の湯船が一番アイディアの出てくる場所かもしれませんね。もっとも、後でもう一度考えてみるとたいしたことないアイディアだったりすることもよくありますけどね(笑)。

BSIの良いところ世界最先端の情報に触れるチャンスがたくさん!

有名人が多い(笑)!! そしてその先生方が呼ぶ著名研究者のセミナーもたくさんあること。世界最先端の情報に触れるチャンスがたくさんあるわけです。また、知っている論文の著者の方々と、間近でお会いしたり直接お話を伺ったりする機会があると、論文だけからは得られない有形無形の様々なことが感じ取れて感激することがあります。BSIのセンター長である利根川進先生は私がBSIに来るまでは雲の上の方でしたが、実際に所内でセミナーを聴いてその強烈なエネルギー、生命力みたいなものにびっくりしました。
また、今現在共同研究をしているThomas J. McHugh先生は、論文上ではずっと存じ上げていたので、最初にお会いした時には「ああこの人があの論文を書いた人なのか!!」と感動しました。あとは、脳科学をキーワードにしていろんな方が集まっているところなので、ちょっとわからないことがあれば所内を探せば誰か相談相手が見つかるのも魅力ですね。

今一番知りたいのは感情の答えに一歩ずつ近付いていくこと

研究とは、大きく言えば 5W1H のwho以外のwhen, where, what, why, howを記述/言語化するものだと思います。そして脳科学は、突き詰めると「自分とは何か?人とは何か?命とは何か?」といった哲学的な命題に突き当たると思っています。
なんらかの感情、例えば哀しみがこみ上げてきたとき、理由がはっきりわかるときもありますし、自分でもよくわからないままただ涙が流れることもあります。こみ上げてきた感情が哀しみであることに気付かないことすらありますよね。でもどの場合でも、脳は同じ「哀しみ」として、ある程度同じ処理をしているのではないかと思います。

「ああ今、私は哀しいのか(=what)」「なぜ私は哀しいのだろう?(=why)」これを一つ一つ脳内の処理として記述していくことは、「哀しみとは何か?」「人はなぜ哀しみを感じるのか?」「哀しい時、なぜ人はこのように振る舞ってしまうのか?」という哲学的な問いの答えに一歩ずつ近付いていくことです。紀元前から多くの名だたる哲学者たちが連綿と考え続けてきた命題の答えの欠片を、今、自分が、世界でたった一人持っているのかもしれない。そう思うとワクワクします。

高校生へのメッセージ

今回この文章を書きながら、久しぶりに自分が高校生だった時の事を振り返ってみました。高校(大阪の古い、川端康成の母校です)は自由な校風で本当に楽しかったな。ソフト部に所属していて日焼けとか気にせずに白球を追っていました(弱小でしたが)。本当に毎日、ずーーっと笑い転げてたような気がします。その一方で、みんなで進路や将来の夢について語り合うこともよくありました。理系にするか文系を選ぶか、そのあと何をやりたいか。そのためには何学部に進むのがいいかな?物理や数学では天性のひらめきみたいなものを持っている人もたまにいて、教えてもらっても「当たり前でしょ?」と言われてなぜそれが当たり前なの…?と理解できなかったり。

実は友人によるとその頃私は、「ロボットなんだけど、人がメンテナンスとかするんじゃなくて、自律的に修復したりエネルギー補給するようなロボットを作りたい」と言っていたそうです。自分では全然覚えてないんですけどね。
自分と、あるいは他者と向き合い、全力で喜び怒り哀しみ楽しむこと。勉強もして欲しい、勉強することは自分の可能性や選択肢を広げることなので(私もやり直したいくらいです)。高校生の時にしかできないことがたくさんあります。それを全力でやって欲しいです。人生何が起こるか本当にわからないですが、今蒔いた種はいつか必ず実るし、蒔かない限り実りません。

岡本研究室前にて
岡本研究室前にて

「人生何が起こるかわからない」で思い出したのですが、実は大学院生の時に友人がある会議で私の今のボスである岡本仁先生の発表を聞いて、当時はまだあまり一般的でなかった、理論的な内容をシステマティックに実験系で証明する研究方法に感動し、私に岡本研究室に行くことを強く薦めてきました。当時はそうか、くらいに思っていたのですが、10年後に実際に自分が所属することになるとは(笑)。本当に人生何が起こるかわからないので、誠実に生きていくことも大切ですね。
最後に、子供の頃から何か起きるたびに聴いてきたブルーハーツというバンドの歌から、心の支えになりそうな歌詞を皆さんに紹介して締めくくりたいと思います。

「どうにもならない事なんてどうにでもなっていい事」
「生きるという事に命をかけてみたい」
「今しかぼくにしかできないことがある」

どうぞ、精一杯生きてください。

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