理化学研究所 脳科学総合研究センター(理研BSI)
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脳科学の人 研究者インタビュー

研究者の生活意外と通常勤務です

 最近は電車通勤なこともあり、若い頃ほど夜遅くまで頑張ることはなくなりました。また個人的な研究姿勢とは別に、全体としても年々「普通」な勤務になってきていると思います。技術革新はもちろん良いことなのですが、できることが多くなると一つの仮説を検証するのにやることも多くなって行きます。そのうち一人ではできなくなって、一つの研究室でも納まらなくなって、研究室内外のサポートしてくれる人や共同研究者と連携することが多くなってきます。そうなるとその人達と同じ時間帯にこちらもいる方が良いわけです。会社勤めの人たちより少し帰りは遅めだと思いますが、研究者は結構書類作成などもするので、私の場合、夜はそういったデスクワークをしていることが多いですね。

手塩にかけている?水槽です
手塩にかけている?水槽です

 日常の一コマから。研究室フロアへのエレベーターが開いてまず見えるのが熱帯魚の水槽です。ここを訪れる色々な方に見て頂いているのですが、私が世話をしています。よく「木下さんの趣味ですか」とか「自宅でも飼っているのですか」とか聞かれますが、そんなことはありません。私は面倒くさがりなので小学校以来、研究目的以外の生き物を飼ったことはありません。そもそも私がBSIに来る前からあるものですし。一年半くらい前まではお世話してくれている人がいたのですが、その後誰も世話をしなくなりました。やがてガラス面にコケが生え、中が見えなくなり、水も臭くなってきて……。私はそのチキンレースに負けたのです。可哀想になって、つい手を出してしまったのです。お分かりかと思いますが、一度そういうことをしてしまうともうそれは私の担当、そのうち「またコケが生えてきているよ」と注意までされるようになって、今では半ば業務として行っているのです。毎週小一時間かけての清掃と20Lの水換えはやはり面倒に思うのですが、私が世話をし始めてから生まれて育ったのも増えてきて、近頃では将来私がここを離れたらと考えると、この魚達がどうなってしまうのかが今からもう心配で。

研究者の休日囲碁大会に出ています

対局中は研究している時より真剣です。残念ながら準優勝でした(2011年世界アマチュア囲碁選手権戦日本代表決定戦から)写真提供:日本棋院
対局中は研究している時より真剣です
残念ながら準優勝でした
(2011年世界アマチュア囲碁選手権戦
日本代表決定戦から)
写真提供:日本棋院

 この原稿の依頼もそれがきっかけだったのですが、私の趣味は囲碁です。最近では大会の時ぐらいしか打たないのですが、小学5年から始めて大学までは自分が一番頑張っていたことだと思います。とはいえ楽しい範囲内での努力でしたが。強い人に追いつこうと背伸びをして、追いつきそうになるともっと強い人に出会って、丁度バトンをつなぐようにそういう人に次々に出会えて、教えて頂いて、気がついたらいつの間にか高いところに連れてこられていたような感じでした。そうして高校、大学、一般の大会で1回ずつ全国優勝することができました。人との出会いだけではなく、どの決勝戦でも運があり、すべて逆転勝ちでした。ただ、内容が悪いのに勝負だけ勝ってしまったので優勝する度にかえって評価が下がるようなところもありました。

 高校の頃は学校がつまらないと思っていたこともあって、思い出は囲碁に関することが多いです。例えば、高校3年の全国大会(4位)の後、日中対抗戦の訪中メンバーに選ばれましたが、私はパスポートを持っておらず通常手続きでは発券が間に合いません。そこで同様の何人かと当時協賛だったTBSの方に連れられて直接外務省に行って即日発券してもらったり(注:現在緊急発券は各パスポートセンターのようです)、その審査から発券までの時間にTBSの社員食堂で食事をしたり(残念ながら芸能人には会えませんでしたけど)、変わった経験もすることができました。

一般の全国大会優勝時の記事です「朝日新聞 1999.07.21付 ひと 朝日アマ囲碁十傑戦で初優勝した 木下暢暁 さん」承諾書番号 A15-1274 朝日新聞社に無断での転載を禁じます
一般の全国大会優勝時の記事です
「朝日新聞 1999.07.21付 ひと 朝日アマ囲碁十傑戦で初優勝した 木下暢暁 さん」
承諾書番号 A15-1274
朝日新聞社に無断での転載を禁じます

 そして一番の思い出は朝日新聞の一般大会で優勝したことです。年代別の大会とは重みが違いますし、それまでにも上位入賞は何度かありましたが、優勝には手が届きませんでしたから。ただ決勝戦は、必敗の形勢の中、相手があまりにも簡単な間違いをしての逆転だったので、申し訳がなくて、直後は素直には喜べませんでした。でもその後、自分の優勝をお世話になった周りの方たちが喜んでくれる姿を見て、やはり準優勝ではなく優勝して良かったと思いました。地元の祝勝会では嬉しくて嬉しくて自分から飲み過ぎて救急車で運ばれてしまう程でした。

 今でも主要大会には参加していてベスト8辺りにはそれなりに行くのですが、優勝は出来ませんね。当時はもう1、2回出来るかなと思っていたのですが。

アイディアが浮かぶ瞬間寝入りと寝起き

 研究の良いアイディアはあまり浮かんだ記憶がないのですが、高校や大学の頃の数学の問題とか、それこそ囲碁などで、解けそうで解けないものが解けるのは寝入りや寝起きの時が多いように思います。脳科学的にも少し変わった発想の生まれ易い状態らしいです。でも残念なことに、私の場合そのほとんどが寝入りでそのまま寝てしまうので、起きた時には確か何か良いことを思いついたような気が、ということぐらいしか残っていないんです。湯川秀樹博士や福井謙一博士を見習って枕元に紙とペンを置いてみたら素晴らしい研究につながるものが見つかるような気もしますが、でもやっぱり後で見直して自分の凡庸な発想にがっかりしてしまうだけのような気もします。

BSIの良いところまさに脳科学研究の総合センター

 BSIの良いところはその名の通り、脳科学に関して総合的なところです。脳科学と一言で言っても分子レベルの機能解析から、行動、感情、更に数理モデル等、様々なのですが、そのほぼ全領域にわたる専門家が集まっています。研究室間の交流も活発で、一堂に会して学会形式の発表をしたり、各研究室が持ち回りで研究発表やレクリエーションをしたりしています。自分の研究が少し他分野にはみ出した時には気軽にその分野の知人に話しができ、互いの研究協力もしやすいです。また、実験動物の管理、遺伝子配列解析や共通利用機器などの様々な研究支援部門も総合的に充実していて、研究者の負担が随分軽くなっていると思います。

 実務的なやりやすさに加えて、誰でも自由に使える広いラウンジやカフェがあり、前述のレクリエーションもそこで行われるのですが、研究室間の交流だけでなく、個人的な息抜きが出来るのが良いですね。連携する人がいるとはいえ、基本的には研究者は独自にテーマを推進するので、行き詰っても自分で解決するしかありません。そんな時に、気分転換しやすいというのは研究生活でわりと重要なことだと思います。

20年後の私面白いことを見つけ続けて

 研究職を全うしようとしているのなら良いと思います。ずっと続けて行けたということはずっと面白いことを見つけ続けられたということでしょうし、この世界へ進んで来たことが悪いものではなかったと思えるでしょうから。

 でも既に大学院から数えて20年くらい生物学研究に携わってきて、自分が出来たことや分かったことを考えると、たったこれだけかと思います。20年後には同じ様に思わないようになりたいものですね。もっともそれ以前に優秀な研究者といわれる人はいつでも前しか向かないものかな。

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