理化学研究所 脳科学総合研究センター(理研BSI)
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脳科学の人 研究者インタビュー

中川直

Name 中川 直(なかがわ なお)
Position 研究員
Education 筑波大学第二学群生物学類
BSI Lab 局所神経回路研究チーム
http://t-hosoya.brain.riken.jp/

代表的研究神経細胞間の結合の法則性を探る

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私たちが何かを感じたり考えたりするとき、重要な働きをするのが大脳新皮質です。大脳新皮質は高等な動物、特にサルやヒトで高度に発達しています。ヒトでは表面積にして2,200 cm3、新聞紙の1面に相当し、その中には100–140億個もの神経細胞があると言われています。さらには1個1個の神経細胞が他の1万個もの細胞と結合する(シナプスを形成する)と言いますから、どれほど複雑な回路か想像できますね。これまでの多くの研究によって大脳新皮質の神経細胞は、興奮性か抑制性か、どの位置にいるか、どの脳領域に投射する(情報を送る)か、などによって分類されてきました。その後、あるタイプの神経細胞は細胞タイプAと結合しやすいが細胞タイプBとは結合しにくい、細胞タイプCは細胞タイプDに情報を送るがDからCへの結合はあまりない、というような様々な神経結合の法則性が見つかり、大脳新皮質内での情報の流れがある程度わかってきました。しかしまだまだ、わからないことだらけです。

これまでの研究はほとんど成熟した脳で行われてきました。しかし、神経結合が無い状態から、未熟な神経回路が作られ、より複雑な神経回路へと組み替えられていく。この過程を調べることで、すでに分かっている神経結合の法則性が形成されるメカニズムや、未知の法則性を発見できるかもしれません。幼若な動物の脳での神経結合の法則性を調べることで複雑な神経回路を解きほぐしていくことが、僕の研究テーマです。

僕は大脳新皮質の第5層に注目して研究を行っています。大脳新皮質は6つの層に分けることができ、第5層は大脳新皮質から他の脳領域へと出力を送る主要な場所です。第5層には大きく分けて2種類の興奮性細胞があります。一つは脳幹や脊髄など皮質下の遠くに投射するタイプ、もう一つは反対側の大脳新皮質(右脳なら左脳)へと投射するタイプです。この二つの細胞タイプは、成熟した脳ではある法則性を持った結合をすることが分かっていますが、幼若な時期の結合については調べられていません。僕は現在、まだ眼が開かないくらいの若いマウスの大脳新皮質で、この二つの細胞タイプの結合を調べています。実験では、細胞間の電気的な情報伝達を調べるため、二つの神経細胞に一つずつ、細胞内の電位の操作および記録をする電極を取り付けます。直径10ミクロンほどの小さな袋状の構造(細胞体)に先端径が2ミクロン程度の記録電極を取り付ける操作は、とても集中力を要します。うまく取り付けられたら、一方の細胞の電位を操作して活動を起こさせます。そのときにもう片方の細胞の電位が変動したなら、記録した細胞ペアの間で神経伝達が行われた、すなわち結合があったとわかるわけです。この調査を1日の実験で10ペア以上から行う、このような実験を何ヶ月にもわたって行い、たくさんのデータを集めました。最近、今まで知られていなかった結合の法則性を発見し詳細を明らかにしつつあります。一般公開や理研の広報を通じて皆さんにお話しできる日を楽しみにしています!

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